2025.06.27
こだわりの木桶でつくる しょうゆ、みそ(その1)

伊勢蔵株式会社
代表者 式井 一博
この記事は2024年8月26日に実施したヒアリングに基づき、
三重県気候変動適応センターが作成しました。
木桶へのこだわりと海外展開
伊勢蔵株式会社(以降「伊勢蔵」という)は、四日市市泊町に蔵を構える、大正3年(1914年)創業の蔵元です。創業当初から代々、木桶を使った味噌や醤油を製造しています。
社名の由来は、「伊勢の国にある蔵」なので伊勢蔵です。蔵のある場所が東海道から分岐し伊勢神宮へと至る伊勢街道の起点に位置しているというのも理由のひとつです。なお、今の社名になったのは、比較的最近のことです。四代目にあたる父が伊勢蔵という名前を徐々に広めて、その後、正式に社名を変更しました。
伊勢蔵に社名を変更する前は、式井醸造有限会社という名前でした。
伊勢という言葉は、県外や海外の方にも耳なじみがあり、覚えていただきやすいことがメリットであると思っています。
現在、伊勢蔵では海外への輸出を意識して事業を行っています。広く海外へ販路を広げるため、日本全国の醤油屋さんとグループを作って活動しています。このグループのメンバーは、皆、木桶で醤油を作っている蔵元です。
現在、日本で作られている醤油のうち、木桶で作っているものは、生産量全体のわずか1%しかありません。そのため木桶で作られた醤油は希少な醤油です。その日本での1%を、世界の1%にしようというのを合言葉に、全国29社がグループを作って一緒に活動しています。
味噌や醤油というのは木桶で作ることで蔵の味が出ます。
ホーローや鉄、樹脂系の装置で作ると、自社の蔵の味になりきらない。木桶でないと自社の蔵の味を作れない。メンバーは、このように思ってはいるのですが、一方ではたして100年後に木桶があるのかという話もあります。
今、伊勢蔵で使っている木桶は、創業以来100年使っているものです。木桶は、150年くらいは使えるといわれています。
一度作った木桶は長く持つことや、今では木桶で醤油や味噌を作っている蔵元も少ないので、木桶作りが仕事として成り立ちにくい状況があります。
おひつやお風呂の湯桶のような比較的小さな桶を作る桶屋さんは、ある程度います。しかし、味噌や醤油で使う、人の背丈ほどもあるような大きな桶作りは、ずいぶんと話が違います。材料にしても、側面の板同士を固定する竹でできている、箍(たが)も当然長いものが必要になります。また、杉でできている側面の板(側板)杉も大きな木材を扱うことになります。小さい桶と構造は同じようなものですが、やはり味噌や醤油で使用する大きな木桶を作ることは難しいと言われます。
これから100年先、木桶を作ってくれる人がいなくなると、私たちは木桶で味噌や醤油を作りたくても作れなくなってしまいます。日本の木桶で作る味噌、醤油の文化を守りたいということや、100年後も消費者に食卓で、木桶でできた醤油を楽しんでもらうということを続けていきたいと思っています。そのような思いを持ったメンバーが集まり話し合った結果、まず売れないとダメだと、世界の醤油の1%くらいの量を木桶で作っていかないといけないだろうということで、今、私たちのグループは活動しています。
自分たちが木桶で作った醬油や味噌を売ることで市場が広がり、新しく木桶が必要になり桶屋さんの仕事が増える。そうすれば、自分たちが新しい木桶が必要になった時、桶屋さんに頼める。この好循環のサイクルを作ろうということで11年くらい前に「木桶職人復活プロジェクト」という活動を始めた人たちがいました。
私は8年くらい前に知り、その活動に参加しました。4年前に海外へ木桶で作った味噌や醤油の販路を広げようという話になり、私もそのグループに入り活動しています。今後も木桶を残していくために、みんなで活動し世界に売っていこうとしているところです。
