三重県気候変動適応センター

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センター活動記録

2025.11.18

「変動する海の環境下でどう生きる」~鳥羽磯部漁業協同組合の挑戦~ その①

 栄養豊富な伊勢湾の海水と、太平洋からの黒潮が交差し、豊かな海を育んできた鳥羽周辺海域。しかし、近年、海水温の上昇や貧栄養化等が漁業に影響を及ぼし、また、海藻養殖では生育不良や黒ノリの色落ち、食害の問題にも悩まされ、生産現場は一進一退の攻防が続いています。
 こうした中、鳥羽磯部漁業協同組合(以下、鳥羽磯部漁協という)は、地域の海藻養殖で創出するブルーカーボンクレジット(Jブルークレジット)を活用し、漁業の再生、地域の活性化と脱炭素を目指した「ブルーカーボンプロジェクト」を進めています。このプロジェクトを主導する鳥羽磯部漁協の小野里 伸室長に、新たな取り組みにかける思いを伺いました。

Q.「ブルーカーボンプロジェクト」の概要を教えてください。
A.プロジェクトでは、海藻養殖において、食害や色落ち等、変化する環境に適応した新たな生産体制づくりを目指しています。さらに、養殖生産で創出したJブークレジットを活用し、地域と連携しながら、藻場の再生活動、磯焼けの原因となるアイゴ(低利用魚)の消費拡大、地域を継承する子どもたちを対象とした環境学習や食育活動を進めています。これらの取り組みや人の循環を通して、持続可能な漁業や地域との共生、脱炭素社会の実現に貢献したいと考えています。

ブルーカーボンプロジェクトのイメージ

Q.プロジェクトに取り組むきっかけは?
A.2022年2月のこと。黒ノリ養殖で、栄養不足による大規模な色落ちが発生。かつてない不漁に見舞われました。生産者が懸命に育てたノリが、商品にならず廃棄される状況を目の当たりにし、「このままでは地域を支える黒ノリ養殖が消える。ノリに食品以外の何か別の価値が見いだせないか」。また、「持続可能な海藻養殖を実現するには、生産者だけでなく地域の支援が不可欠。地域にもメリットのある、連携した取り組みができないか」との思いが強くなりました。海藻養殖によるブルーカーボンや脱炭素に着目。Jブルークレジットの認証を取得しようと思いついたのはこの時です。
 その後、研修会や勉強会を通じて、漁業者や地域の理解を深めるとともに、多くの関係者の協力を得て、認証を受けることができました。

Q.海藻養殖の新たな生産体制づくりに向けて、今、取り組んでいることは?
A.黒ノリ養殖では、三重県水産研究所が開発した高水温耐性品種「みえのあかり」を導入するとともに、養殖漁場に防除網を設置し、アイゴ等の食害を低減しています。また、これまで生産者が個別に板ノリ加工をしていましたが、漁協が一括して加工できる施設を整備し、生産の増強はもちろん、省力化による後継者対策にもつなげています。
 ワカメ養殖では、水産エコラベル(環境に配慮した方法で行われる漁業・養殖業を認証する制度)の認証を取得し、生産者と漁協が一丸となって品質向上に努めており、取引先からも高い評価を得ています。

※この記事は、三重県から委託を受け、当センターが編集を行った情報誌「しきさい」2025夏号に掲載されています。

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