2025.12.03
「変動する海の環境下でどう生きる」~鳥羽磯部漁業協同組合の挑戦~ その②
栄養豊富な伊勢湾の海水と、太平洋からの黒潮が交差し、豊かな海を育んできた鳥羽周辺海域。しかし、近年、海水温の上昇や貧栄養化等が漁業に影響を及ぼし、また、海藻養殖では生育不良や黒ノリの色落ち、食害の問題にも悩まされ、生産現場は一進一退の攻防が続いています。
こうした中、鳥羽磯部漁業協同組合(以下、鳥羽磯部漁協という)は、地域の海藻養殖で創出するブルーカーボンクレジット(Jブルークレジット)を活用し、漁業の再生、地域の活性化と脱炭素を目指した「ブルーカーボンプロジェクト」を進めています。このプロジェクトを主導する鳥羽磯部漁協の小野里 伸室長に、新たな取り組みにかける思いを伺いました。
こうした中、鳥羽磯部漁業協同組合(以下、鳥羽磯部漁協という)は、地域の海藻養殖で創出するブルーカーボンクレジット(Jブルークレジット)を活用し、漁業の再生、地域の活性化と脱炭素を目指した「ブルーカーボンプロジェクト」を進めています。このプロジェクトを主導する鳥羽磯部漁協の小野里 伸室長に、新たな取り組みにかける思いを伺いました。
Q.クレジットを活用した地域連携の取り組みの状況を教えてください。
A 01.藻場の再生活動
漁協青壮年部と鳥羽市水産研究所が開発に携った鳥羽工法※1を用い、漁協青壮年部が継続して藻場の再生に取り組んでいます。この活動が認められ、第14回全国青年・女性漁業者交流大会で農林水産大臣賞受賞、農林水産祭では見事、天皇賞を受賞しました。
※1 鳥羽工法とは、木片上で育てた海藻種苗を天然石に取り付け、潜水して海底に設置する方法。

A 02.温暖化で増えるアイゴの消費を増やそう!
アイゴは美味しい白身魚ですが、ヒレにトゲ針があり、特徴的な磯の香りもあって商品価値は低く、漁業者も積極的に漁獲しませんでした。アイゴを食べる人を増やせば、水揚げも増え、アイゴが減り、海藻も増えます。そこで、アイゴの消費を増やそうと、各種イベントを開催。学校給食にアイゴを提供したり、県庁や地元企業の食堂でアイゴフェアを開催するなど、“アイゴファン”を増やす活動を進めています。

白身魚で美味しい“アイゴ” 
美味しいよ!

学校給食に提供 
フランス料理に大変身
(アイゴのポワレ)
A 03.地域の子供たちと行う環境再生活動や食育活動
藻場再生活動には、地元の中学生も参加。また、地元の水産物を学校給食に提供する等、食育にも力を入れています。こうした取り組みを行う際、地域の環境や漁業の課題を考える授業を合わせて行っています。地元を愛し、地域が抱える課題を自分事としてとらえ、未来を切り開く、そうした人材の育成を支援しています。

Q.プロジェクトの成果と今後の課題についてお伺いします。
A.事例報告の依頼やメディア等の取材が多く、クレジットを購入してくださる企業※2や地元の支援も増え、プロジェクトに対する理解の輪が拡がりつつあります。また、こうした取り組みにより、漁業者のモチベーションも向上し、「自分たちはブルーカーボン生態系を守る、環境にやさしい仕事をしている」という誇りとやる気が芽生えてきたと感じます。このプロジェクトが、漁業・地域の活性化と、脱炭素を実現するモデルとなれるよう、取り組みをさらに進めていきたいと考えています。
※2 2025年4月時点 18社
「漁業者は皆、真摯に海と向き合い、新鮮で美味しい水産物をお届けしようと、その一心で厳しい仕事にも立ち向かっている」とおっしゃる小野里さん。漁業者の方々は、海の環境の微妙な変化を肌で感じ、「自分たちにできること(適応)は何か」をいつも考えて行動されています。このプロジェクトによる地域漁業の再生を通して、地球温暖化防止に少しでも貢献できればという思いが伝わってきました。
トピックス
新たなCO2吸収源“ブルーカーボン”
海藻などの海洋植物は、海水に溶けたCO2を光合成で吸収、生長し、枯れた後、海底に堆積、埋没したり、深海域に運ばれ、長期間、炭素(C)を貯留します。こうした海洋植物の働きによって、海中に貯留される炭素を「ブルーカーボン」と呼び、陸の森林等に貯留される炭素「グリーンカーボン」と区別されています。
「ブルーカーボン」は今、CO2の吸収源対策の新たな選択肢として注目されています。

海洋植物は、CO2を吸収し、炭素を長期間蓄積(貯留)できることから、
有効な温暖化対策として注目を集めている
Jブルークレジット制度
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が2020年に創設。NPO、市民団体等が藻場の保全活動等で創出したCO2の吸収・貯留量を、売買可能なクレジットとして認証する制度。Jブルークレジットを購入した企業は、自主的にその保有クレジットを無効化することで、その企業の事業活動等により生じたCO2排出量を穴埋めし、オフセットすることができる。
※この記事は、三重県から委託を受け、当センターが編集を行った情報誌「しきさい」2025夏号に掲載されています。