2021.04.26
いもち病にも夏の暑さにも強い水稲新品種「なついろ」の開発
三重県農業研究所
近年、三重県産米の一等米比率は、全国平均に比べて低く推移しています。
その原因のひとつは、温暖化の進行に伴う夏季の気温上昇により、お米が白く濁る「白未熟粒」発生の増加にあると考えられます。
特に、県内で作付けされる水稲品種の約8割を占める「コシヒカリ」は、比較的夏季の高温により白未熟粒の発生が多くなる品種であることも大きな要因と思われます。
そこで、県産米の品質向上を図るため、三重県農業研究所では、夏季の高温でも白未熟粒の発生が少ない水稲品種「なついろ」を新たに開発し、2019年に品種登録出願しました。
農業研究所では、これまでにも同様の特性を持つ「三重23号」を開発しており、このうち一定の品質要件等を満たしたものは、「結びの神」のブランド名で販売されています。
「なついろ」は、高温登熟性が優れる品種としては、三重県農業研究所で開発された2番目の品種で、夏の高温に強い、風で倒れにくい、食味が良いという「三重23号」の優れた特性を受け継ぐとともに、いもち病に比較的強い「三重23号」の特性をさらに強化した品種です。
いもち病は、稲を栽培するうえで代表的な病害の一つです。
気候変動や地球温暖化の進行との関連は、特に指摘されていないですが、昨年(2020年)のように、梅雨時期が長期化すると発生が助長されます。
いもち病に強いということは、予期せぬ天候不順時においても、それだけ農家の方が安心して稲作に取り組めることにつながります。「なついろ」は、「三重23号」の持つ特性に加え、このいもち病への抵抗性を高めることを目的に開発を進めました。
コシヒカリとなついろの玄米の比較
(コシヒカリ(右)に比べて、なついろ(左)の方が白未熟粒が少なく、外観品質が良いのがわかる。)
「なついろ」の開発には、遺伝子情報を活用した新しい育種手法を活用しました。これにより、通常10年以上必要な開発期間を6年に短縮することができました。
これは、稲の持つ遺伝子情報の解析が進んだことで、いもち病の抵抗性に関連のある遺伝子が特定されたことによります。
この新しい育種手法では、開発した新品種がいもち病に強いかどうかを、その関連する遺伝子があるかないかで判断できるため、種子を採って稲を栽培することなく確認できます。
なお、この手法は、遺伝子組み換え技術とは異なり、従来のように交配により開発した品種の選抜効率を高めるための技術です。
「なついろ」は、2019年度に約1ha試験栽培され、2020年度から一般栽培が始まりました。三重県産米の一等米比率の向上に向けて、今後の普及が期待されます。