三重県気候変動適応センター

MENU

新着情報

2022.11.28

クロアワビの種苗生産と海に起きている様々な変化(上)

三重県立水産高等学校

アワビの漁獲量の減少

 志摩市(旧志摩町)はかつてアワビ王国と言われていました。アワビは地域の漁業者にとって最も重要な水産資源のひとつです。

 近年、志摩半島のアワビの水揚げ高は激減しています。志摩市でのアワビの水揚げは、2006年には46トンあったのが、2020年は14トン、2021年は6トンにまで落ち込んでいます。

 現在、漁協によってはアワビの水揚げがないところもあります。また、自主的にアワビを獲ることをやめている漁協もあります。
 獲れたアワビは痩せていることが多いです。痩せたアワビは焼くと身が縮みます。

 アワビのエサとなる海藻のアラメ(注1)も激減しており、地域によっては、海女もアワビを獲るよりも海藻を食い荒らすウニの一種であるガンガゼの駆除に力を入れています。

 アラメは、志摩半島の南東端にある大王崎の南側では見かけなくなっています。大王崎の北側にはかろうじて残っています。

 大王崎よりも北に位置する安乗(あのり)地区は、志摩市内で唯一、アワビを比較的多く漁獲できている地区ですが、今年7月末に発生したカレニア・ミキモトイ(植物プランクトンの一種)による赤潮の影響等が心配されます。
 また、海藻が著しく減っていく磯焼けは徐々に北へ進行しているため、安乗地区のアワビ漁の将来についても心配です。

注1 「アラメ」と「サガラメ」は、別の海藻です。志摩地域でアワビが主にエサとしている海藻は、「サガラメ」です。志摩地域では、一般に「サガラメ」のことを「アラメ」と呼んでいるため、本文中では、「アラメ」という表記を使用しています。

水産高校によるアワビの種苗生産

 水産高校では、生徒の課題研究の一環として、アワビの種苗生産に取り組んでいます。

 三重県内で漁獲されるアワビには、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビの3種類があります。アワビが生息する場所は、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビの順に深くなっています。

 マダカアワビは深いところに住んでいることもあり、漁獲量は比較的少ないです。
 メガイアワビは一般にシロアワビ(鳥羽市ではアカアワビ)と呼ばれるアワビです。志摩市内に放流されているアワビはメガイアワビの割合が多いです。

 3種類のアワビの中ではクロアワビが最も高価です。種苗生産事業者では、クロアワビの種苗生産にも取り組んでいますが、種苗を生産する過程で発生する筋萎縮症等により、生産量が安定していません。

 水産高校は、育てにくいけれど、地域にとって最も重要な資源であるクロアワビを種苗生産の対象として選びました。
 また、クロアワビは、3種類のアワビの中では一番浅いところに生息するため、生徒たちが放流しやすいという利点もあります。

地域からの様々な支援

 クロアワビの種苗生産にあたっては、学校の内外から多大の支援をいただいています。

 志摩半島の各漁協からは、それぞれの海域の藻場の状況、アワビの漁獲などの情報を随時いただいています。また、漁港内での水揚げ作業の見学や漁業者との意見交換の機会を提供いただいており、生徒たちにとっては大変貴重な経験となっています。

 南伊勢町の南勢種苗センターの山本係長と山本主任、鳥羽市にある三重大学水産実験所の松田教授からは、種苗生産に関する指導助言をいただいています。

 南勢種苗センターからは、アワビの専門家としての技術的な助言だけでなく、生徒たちに種苗センターを見学させてもらったり、来校して生徒たちを直接指導いただく等、全面的な支援を受けています。

 また、水産高校では、アオリイカの資源回復のための産卵場所の造成や、ナマコの増殖にも取り組んでいるのですが、三重大学の松田教授には、アワビだけでなく、それらの取組も含め、水産分野全般について幅広くご助言をいただいています。

新しく整備された陸上養殖システム

 さらに、令和3年度には、「スマート専門高校」の実現事業として、国からの補助金を受け、約7,000万円をかけて、ICTを活用した陸上養殖システムを整備することができました。

 陸上養殖システムは24時間体制で水温、塩分濃度、溶存酸素量を計測し、データを蓄積できるほか、インターネットを介して、スマートフォンでどこからでも水槽の状況を監視できるようになりました。このことで、魚貝類の飼育管理を行う際に、これまでは経験と感覚で行ってきたことを、水槽内のデータから科学的に判断することで、トラブルを未然に防ぐことができるようになりました。

ガンガゼ駆除棒の作成と実験

クロアワビの種苗生産と海に起きている様々な変化(中)に続きます》

TOP