2022.12.01
クロアワビの種苗生産と海に起きている様々な変化(中)
三重県立水産高等学校
生存率の高い大きな貝に育てたい
水産高校がクロアワビの種苗生産に取り組んだのは 2020年からです。
2020年の秋に種苗生産を開始しましたが、2021年の夏の赤潮で 15,000匹いた稚貝のうち 5,000匹ほどが死んでしまいました。赤潮以外にも様々な理由で稚貝は死んでしまうため、現在生き残っている2020年産の稚貝は4,000匹ほどです。
現在、2020年秋の養殖開始から 1年半が経過し、稚貝は、殻の長さが 3センチ程度にまで育ちました。これは、通常の種苗生産では、種苗として放流する程度の大きさです。
ただ、殻の長さが 4センチ以上になった方が放流後の生存率が高いため、今年(2022年)の夏以降も稚貝は学校内の水槽で育て続け、来年の春を待って放流したいと考えています。
しかし、来春まで校内に稚貝を留め置くという選択は、実は大変大きな賭けでもあります。
夏の高水温は、アワビの種苗生産にとって大変な脅威です。水温が30℃以上になるとアワビの稚貝は弱ってしまい、大量にへい死する恐れがあります。また、来春までに赤潮が発生すれば、稚貝が大量にへい死する恐れがあります。すでに、今年7月の赤潮によって、養殖中の稚貝は大きな被害を受けてしまいました。被害の規模については、現在、精査しているところです。
食べたエサが貝殻の色を決める
自然の状態では、アワビの稚貝は珪藻を食べて育ちます。大きく育った貝はアラメを食べますが、稚貝のうちはアラメは食べません。
水産高校で現在育てている稚貝はいくつかのグループに分け、水槽も複数、使用しています。エサは、基本的に珪藻板に着底させて育てた後、配合飼料を食べ始めてから殻長が1センチ程度に育つまでは、配合飼料のみを与えます。1センチを超えてからは、配合飼料とともに海藻(塩蔵コンブ、塩蔵ワカメ、アラメ)を併用します。
ただし、一部の稚貝については試験的に、珪藻のみで育てる粗放的飼育を行っています。珪藻のみの飼育では、水槽の中に陽が差し込むことで、海水中に元々いた珪藻が水槽内で育つので、給餌を行いません。
アワビは食べたエサによって貝殻の色が変わります。
珪藻やアラメを食べて育ったアワビの貝殻は赤茶色ですが、配合飼料を食べて育ったアワビの貝殻は黄緑色になります。その後、自然界に放流されて成長すると、黄緑色の殻の周りに赤茶色っぽい殻が育ちます。黄緑の部分は残り、そこをグリーンマークと呼んでいます。
黒潮大蛇行の影響
2017年8月に始まった黒潮の大蛇行が現在も続いており、志摩半島の沿岸では冬に水温が下がりません。
大蛇行が起きると、通常は黒潮から枝分かれした黒潮の反流が三重県沿岸に流れ込むのですが、最近では、反流ではなく黒潮本体が三重県沿岸の比較的近い海域を流れることがありました。
反流は青く澄んでいますが、黒潮はさらに透明度が高く、黒潮が流れている海域は真青に見えます。今まで海底が見えなかった海域でも、底まで見えるようになっています。透明度が高いということは、それだけプランクトンが少なく栄養分がないということです。
志摩地域の海人の方たちの言葉に「メハエジオ」というものがあります。漢字を充てると芽生え潮でしょうか。メハエジオは、冬から春にかけて伊勢湾から流れてくる、白く濁った冷たい潮で、栄養分を沢山含んでいます。メハエジオが、伊勢湾沿いを南下して志摩半島沿岸に流れ込むと海藻がよく育つと言われています。
黒潮の大蛇行によって、このメハエジオが伊勢湾から入りにくくなっていると感じています。
全ての種類の海藻が全く生えなくなったわけではありません。ホンダワラ類などの多くの種類の海藻は水温が上がる夏にはもともと消失します。夏に残っているはずのアラメは、大王崎の周辺では、春に芽は生えようとしているのですが、なかなか夏を越すことができません。海水温が高いとアラメ自体も衰弱し、さらに、食害生物の活性も高くなることから、海藻は食害を受けます。
本来であれば小さな海藻は、大きな海藻の下に守られているはずなのが、大きな海藻が枯れて茎だけになっていたりするので、魚類や貝類などの食害にあうように感じます。また、近年の台風が大型化することにより、波が大きくなり、海藻が岩からはがれ落ちてしまうのかもしれません。
黒潮の大蛇行はアワビやアラメの生育を始め、志摩半島の海の生態系に大きな影響を与えています。
《クロアワビの種苗生産と海に起きている様々な変化(下)に続きます》