三重県気候変動適応センター

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2022.12.05

クロアワビの種苗生産と海に起きている様々な変化(下)

三重県立水産高等学校

モジャコの捕獲と網に入る魚種の変化

 水産高校では、5月から6月の間に、授業の一環として熊野灘に船を出して、ブリの稚魚であるモジャコを捕獲しています。近年、モジャコが獲れにくくなっている傾向が続いています。モジャコは流れ藻の下に隠れているので、そこへ網を入れます。今年(2022年)は流れ藻となるホンダワラ自体少なかったと感じています。

 網にはほかの魚の幼魚も入ります。

 昨年(2021年)と今年(2022年)は、南の方のサンゴ礁のある海域に住むアミモンガラの仲間やゴマモンガラの仲間などの幼魚が網に入りました。これらの魚は、以前から黒潮に乗ってこの海域までやってくることは知られていましたが、授業でモジャコを捕獲する中で、目にしたのは昨年が初めてです。

アミモンガラの仲間の幼魚

 メバル類は比較的低い水温を好む魚です。かつては、たくさん網に入ったのですが、メバル類はこの3年間、獲れていません。

 イシガキダイとイシダイはよく似た魚ですが、イシダイと比べると、イシガキダイの方がやや南方系の暖かい海域を好みます。イシガキダイは3年続けて獲れていますが、イシダイはここ2年間獲れていません。獲れる数についても、イシガキダイが多く、イシダイは少ないという印象があります。

メバルの仲間

他にも確認されている魚種の変化

 また、水産高校では、9月から11月の間に、授業の一環として学校のすぐ裏の海で海の生物を採集・調査しています。特定の時期の、短時間の採集なので、データの量は少ないですが、この魚の種類にも変化が見られます。

 2019年からはオオモンハタが採集されています。オオモンハタはこの海域に元々いる魚ですが、いままで、英虞湾の湾奥ではあまり見かけませんでした。それが、2019年から湾奥で毎年見られるようになりました。

 2021年には、今まで一度も見たことのないチャイロマルハタという魚が採集されました。南方系で、かつては日本では珍しい魚だったようですが、志摩半島よりも南にある尾鷲では、すでに高級魚として漁業対象種になっているようです。

2021年英虞湾湾奥ではじめて採集されたチャイロマルハタ

 いずれも本来であれば冬に水温が低下する英虞湾内において、水温が低下しないことが原因ではないかと感じています。

 授業で海の生き物を採集する場所のすぐ近くには、イカダが浮かんでいます。このイカダの周りを夏には、マアジがいつも回遊しています。

 昨年(2021年)から、マアジに混じって、タカベが沢山泳ぐようになりました。タカベは暖かい海で育つ魚で、志摩でも以前から見られましたが、英虞湾の湾奥で回遊しているのを見たのは初めてです。

 漁師の方からは、定置網や、疑似餌を船で引っ張りカツオなどを狙うケンケン漁で、タカサゴやアオチビキといった沖縄の海に生息する魚が獲れたという話も聞いています。

 学校の裏で採集される魚、目視される魚、モジャコ捕獲の際に網に入る魚、漁師の方からの伝聞、ひとつひとつの情報は海の変化を明確に示す証拠ではありません。しかし、それらの情報を総体として見ると、海の状態が以前とは明らかに変化したと感じています。

英虞湾奥で見られようになったタカベ

モニタリングの重要性と黒潮大蛇行の解消

 志摩のアワビや海藻に、いま起きている事態に対しては、ガンガゼや食害魚の駆除など様々な対策が講じられています。先行する他の海域では、対策が実を結んで海藻が生えるようになった事例があると承知しています。

 そうした地道な取組に期待しつつ、一方で、環境の大きな変化に対しては、現場でどのような変化が起きているのか、できるだけ詳細なモニタリングを行うことが必要です。それが将来起こることを予測し、対策を検討することにつながると考えています。

 現在、三重県の沿岸域で起こっている海水温の上昇は、気候変動が何らかの影響を及ぼしているとしても、大きな原因として黒潮の大蛇行を抜きにしては考えられないものです。大蛇行が収まれば、海水温についても一定の低下は見込めるはずです。

 クロアワビの稚貝が今年の夏を無事に乗り切れば、来年の春には放流を迎えます。現在の黒潮が大蛇行をした状態のままでは、かつてアワビ王国と言われた旧志摩町内ではなく、志摩市内でも大王崎の北側にしか、稚貝の放流はできないかもしれません。大蛇行が解消し、志摩市の様々な海域で放流ができ、アワビが増えて漁獲できるようになればと願っています。

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