三重県気候変動適応センター

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センター活動記録

2024.10.22

森林を守り、林業を未来へつなげたい(その5)  ~三重と松阪の森林、森林の多面的機能~

松阪飯南森林組合

この記事は2023年9月26日に実施したヒアリングに基づき、
三重県気候変動適応センターが作成しました。

三重の森林、松阪の森林

 三重県の民有林の森林面積は、スギとヒノキを中心とする人工林が218千ha、天然林が123千haです。人工林の割合は63%と、全国平均の46%を大きく上回っています。松阪地域の人工林は、スギが6割、ヒノキが4割を占めています。

 三重県は奈良県と並ぶ優良な木材の生産県です。
 特に松阪地域は、奈良県吉野地方の影響を受け、古くから密植型の林業が発達しており、飯高林業地に代表されるように全国でも屈指の優良な木材の生産地を築いてきました。

 そのため、製材所の数も多く、昭和50年(1975年)には三重県全体で853の製材工場がありましたが、このうち現在の松阪市管内には228工場が立地し、全体の約26%を占めていました。しかし、林業の衰退とともに、平成28年(2016年)現在では53工場となっています。

 密植型の林業は、単位面積あたり多くの苗木を植えて、間伐を繰り返し、ていねいに枝打ちを行うことで優良な木材生産を目指す林業です。最終的に高品質な木材を得ることで高い収入が期待できる他、間伐材を杭や足場丸太として売ることで、育林の途中にも一定の収入が見込めます。
 苗木を植える本数は、通常1haあたり、2,000本から3,000本です。三重県では、1haあたり、5,000本から8,000本を植えていました。現在は、三重県でも2,000本から3,000本が一般的になっています。

 松阪地域の森林は、全体として見ると、伐採して収入を得る時期に来ています。しかし、あまりにも木材の価格が下がりすぎて伐採をためらう人や今後の様子を見ている人が多く、伐採して収入を得ようと思う人は少ないのが現状です。 
 現在、山にある立木の価格は、全盛期の10分の1になっています。

 この地域で、1haの森林を伐採した際、森林所有者に入る立木の売却収入は、およそ30万円から70万円です。同じ山に再び苗木を植え、森林を育てる再造林には、1haあたりおよそ110万円かかります。
 再造林には、国の補助制度が使えます。しかし、補助を受けても、1haあたり30万円以上の自己負担があるため、売っただけで何も手元に残らない場合もあります。

 苗木を植えれば、下刈り等の作業にかかる自己負担も発生します。補助を受けて獣害防護柵を設置しても、シカ等の食害から苗木を100%守れるわけではありません。柵が壊れて食害にあうこともあり、改めて森林を作ることはかなり難しくなっています。
 このため、伐採した後に再造林を行わない、行えない人もおり、伐採後放置林も徐々に増えてきています。
 放置林は、松阪地域だけでなく、全国的に問題になっています。

獣害防護柵の設置作業

森林の多面的機能

 森林は木材を生産するだけの場所ではありません。土砂災害の防止、水源のかん養、生物多様性の保全、保健休養の場の提供、二酸化炭素の固定による地球温暖化の防止等、森林は多面的な機能を持っています。
 これらすべてが大切な機能ですが、特に土砂災害の防止、水源のかん養については私たちの生活にとって大きな役割を果たしていて、とても重要な機能だと思います。

 森林の持つ機能を最大限引き出すには適正な管理と作業が必要です。しかし、現在の林業は、補助金が無くては成り立たないような状況になっています

 昔は補助金が無くても、伐採して得た収入の一部を次の植林や間伐等の作業に充てる等、売り上げだけで「植えて、育てて、収穫して、また植える」といった循環するサイクルができていました。しかし、木材価格の極端な下落がそのサイクルを止めてしまいました。その結果、適正に整備できる森林の量が少なくなっていることは、とても大きな問題だと思っています。

 全体に作業が行き届かないことや、放置される森林も多くあるため、昔に比べると森林の持つ保水力が低下しています。
 昔だと、雨が降っても森林が吸収し徐々に谷に流れ、年間を通して川の水位や水量が安定していたと聞いていますが、以前から、特に手入れがされていない森林では、雨が降っても、吸収されることなく地面の上を水が流れる等、保水力の低下が著しいようです。
 そのため、時期によっては極端に川の水位が減ってしまうことも多くなってきています。

 林業関係者にとって、森林は第一に事業活動を行う場所ですが、同時に林業関係者を含むすべての人にとって、森林は生活を支え暮らしの安全を守る社会的な基盤でもあります。今後の社会と自然の変化によって、森林も林業も様々な影響を受けるでしょう。その変化の中には気候変動による気温や降雨の変化も含まれます。

 私たちの安全安心な暮らしを守るために、現在の森林や林業が抱える問題について、森林や林業に関わる人だけでなく、多くの人たちに知ってもらい、関心を持ってほしいと思います。そして、問題の改善や解決に向けて、一緒に知恵を絞ってほしいと思います。

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