2024.04.02
気温とニホンジカが御在所の自然を変えている(その4) ~ニホンジカの影響、野鳥の変化~
御在所ロープウエイ株式会社
ニホンジカの影響 ニホンカモシカ
御在所岳のあらゆる変化に、一番影響を与えているのがニホンジカです。
以前は、山上に生息するニホンジカは、夕方、まれに2、3頭が姿を見せるだけでしたが、今や普通に見ることができます。そのため、ニホンジカに比べて体の小さいニホンカモシカは、生息地であった山上や山の中腹からふもとへ追いやられました。ニホンカモシカの個体数は年々減少しています。
ある研究者によると、30年前と比べて、1/5にまで減ってしまったとのことです。ふもとで交通事故にあうニホンカモシカを見ることもあります。
ニホンジカが増えた原因は、気候の温暖化により越冬する個体数が増えたこと、2006年には日本カモシカセンターが閉園し、他の動物の臭いが減ったことが考えられます。
ニホンジカは様々な環境に順応する能力がとても高い動物です。ニホンジカは本来、草地と森林がモザイク状になった平坦な場所を好みますが、今は急な傾斜地を含め、御在所岳の広い範囲に生息しています。
ニホンジカの影響 植物と昆虫
ニホンジカによって、アカヤシオやドウダン系の貴重なツツジ類が食害を受け、年々減少しています。また、山上の笹が弱って低くなったのも、ニホンジカの唾液が原因とする研究もあります。樹皮が固いシロヤシオは、食害による被害が比較的少ないので、シロヤシオが目立つようになってきました。
笹が低くなり、シロヤシオが目立つ同様の景観は、シロヤシオが群生する鈴鹿山脈北側の竜ヶ岳でも見ることができます。
山上公園にある芭蕉池には、以前はミズバショウ(水芭蕉)がたくさん自生していましたが、すべて無くなりました。ミズバショウは毒があるため、動物は食べないと言われていたのですが、国内の他の地域ではニホンジカによる食害がいくつも報告されています。おそらく御在所でも同様のことが起こったのではないかと推測しています。
参考までに付け加えると、芭蕉池には、ミズバショウと同じサトイモ科で、毒のあるザゼンソウ(座禅草)も生えているのですが、こちらは今も健在です。
昆虫類で、一番目立って変化があったのは、アサギマダラ(蝶)がほとんど飛来しなくなったことです。こちらはアサギマダラが好むイタドリやノコギリソウなどの植物がニホンジカの食害で無くなったことが原因と思われます。
ザゼンソウ(座禅草) アサギマダラ
野鳥の変化
野鳥では、6、7年前から山上で夏鳥として飛来するカッコウの姿が確認されるようになりました。
カッコウは別の種類の鳥の巣に卵を産み、子育てをさせる「托卵」を行うことで知られている鳥です。御在所岳では、ウグイスが托卵の被害を受ける鳥です。山上には、ウグイスがたくさん生息しており、春先に山上を訪れると、ウグイスの鳴き声がきれいに聞こえます。
托卵されると、先に卵から孵(かえ)ったカッコウのひなが、ウグイスの卵を巣の外へ放り出してしまうため、ウグイスの生息数の減少等、今後の影響が心配されます。
また、カッコウは明るい開けた土地を好むため、カッコウの来訪には、山上の木々がまばらになり、密度が低下していることが関係していると思われます。
カッコウ以外では、外来種であるソウシチョウを山上で見かけるようになりました。もともとは東南アジア等に生息する鳥なので、それが御在所岳の山上で見られるということは気候の変化の影響は相当大きいと思います。
さらに、直近の変化としては、コルリの姿を見ることがなくなりました。3年前はさえずりを聞いたのですが、この2年は姿、さえずりともに確認されていません。