三重県気候変動適応センター

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2024.07.16

海藻から見る鳥羽の海の変化  ~鳥羽市 海のレッドデータブック2023より~

鳥羽市水産研究所 岩尾豊紀

 この記事は、三重県鳥羽市が発行した「鳥羽市 海のレッドデータブック2023」(2023年8月発行)に掲載のコラム「評価対象種以外にも気になる海藻たち」を発行者及び執筆者の許可を得て転載したものです。転載にあたっては、執筆者のご厚意により、冊子発行後の知見に基づく内容を加筆いただきました。
 また、画像は本サイトへの掲載のため、新たに提供いただいたものです。
 なお、ウェブサイトでの読みやすさを考慮し、空白の行と改行を追加しています。

 鳥羽の海に潜って13年ほどになる。観察し始めたころにはすでにカジメやサガラメの密度が低くなっていた場所(答志島北部、坂手島北部、小浜海岸など)もあれば、まだまだ鬱蒼と茂っていた場所(答志島南東部、石鏡、国崎、相差など)もあったが、磯焼け(大型海藻の消失現象)しているという状況ではなかった。

 県内でも熊野灘の影響を大きく受ける尾鷲市や紀北町、南伊勢町ではもう20年も前から磯焼けが進行しており、この10年ほどは鳥羽市の南隣である志摩市でも深刻な磯焼け状態になっている。
 そんな中、鳥羽海域は比較的高密度に海中林(カジメ、サガラメの規模の大きな群落)が茂り、多種多様な海藻が生えていた。

カジメとサガラメの群落(中央の太い海藻がサガラメ)

 しかしながら、この10年ほどの間にそれらの海中林の密度や量は全体的には減ったという印象を受けている。特に2020年あたりからは魚による食害の跡も目立ち、2022年の秋にはすっかりなくなってしまった海域も発生している。

 それらの藻場を構成する主要な海藻以外にも調査の度に注意しているのが、海中林の林床部に生えているような「下草海藻」や潮間帯に生えるような大きさ10cm程度の小型の海藻である。

 びっしりと多く生えているというわけではないが、潮通しのよい澄んだ海域の林床等には繊細で柔らかなヒビロウドがあちこちに見られ、岩陰のようなところにはエツキイワノカワも生えている。また、ハイミルがあちこちに見られ、マクサはどっさりと茂っている。そして潮間帯上部にはツノマタがびっしりと重なり合っているというのが普通であった。

ヒビロウド
ハイミル(中央右下より暗緑色の塊)
マクサ

 鳥羽だけでなく、どこの海に潜ってもこれらの海藻がしっかりとあるべきところに生えているかどうかは私にとっては「潮がある程度きれいで海藻の種数がまずまず多様で、そこに暮らす動物類も豊富なのだろう」という判断をするための指標のように見ているこれらの海藻であるが、鳥羽海域ではこれらも明らかに減っている。
 全海域でというわけではなく、生えているところには普通に生えているのだが、いつも見かけた場所にいない、という状況である。

 また、クロモというモズクのような海藻も減少している。
 鳥羽海域では2、3の海域に限定的に生えていただけであり、今でもまだ生えているのだが、減っている。他の場所にも生えているかもしれないが、見つけられていない。

 見つけられていない海藻といえば、ツルモがある。
 私が定期的に調査するポイントでは見かけたことはないのだが、海藻養殖筏や、牡蠣筏のフロートなどに春先になると漂着しているのを毎年見かける。
 潮流や漂着場所から判断するに、どこか近隣の穏やかな磯に生えていることは確かなのであるが、場所がわからない。見つけられない間になくなってしまいはしないかと心配している。(コラム執筆当時は見つけていなかったが、その後安定的に生えている場所を鳥羽海域内で発見。ただ、研究所に流れ着いてくるツルモの供給源であるはずの群落は2024年7月現在、未発見である。)

 現在は2017年7月から始まった黒潮大蛇行の最中であり、そのため海水温や潮位の変動の傾向がそれまでとは大きく変わっている。そのこと自体も海藻の繁殖に影響を与えているが、当然、藻食性魚類の行動にも影響を与えている。

 それ以外にも地球温暖化というダイナミックな気候変動や山間を含む河川流域や河口域の物質循環の貧弱化などの影響もあり、それまでの海藻相がそのまま保たれるとは考えにくい状況ではある。

 そういう状況下であるので、これらの海藻の減少がこのまま続き、志摩市以南のように、重度の磯焼けに結び付くということは大いにありうる。
 また、そのような予想に反し、鳥羽海域はこれまでのように、何とか磯焼けから免れ、一定以上の藻場として残り、その時の環境に応じた多様性を見せるようになるのかも知れない。

 大蛇行が収束すると必ず大きな変化も現れるはずである。観察できる場所で観察を続け、変化を記録することは大切であり、その時に他の生物の変化と合わせて今見えていないものが見えてくることを期待している。

カジメ

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