三重県気候変動適応センター

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2023.02.17

ミナミアオカメムシの越冬可能地域を予測する

三重県農業研究所

分布拡大の経過

 ミナミアオカメムシは、もともとは熱帯、亜熱帯の海外から日本に侵入してきた昆虫です。1960年代には、九州で被害が問題になっていました。その後、徐々に分布拡大をしていきましたが、2000年代に入って分布拡大が急速に進み、九州をはじめ全国的に被害が問題になりました。  

 三重県では1980年代になって、紀州地域で生息が確認されていましたが、大きな問題とはなっていませんでした。しかし、2006年以降、伊勢平野でも確認されるようになり、急速に県内での分布を拡大させました。三重県病害虫防除所が実施した2006年から2010年まで県内の分布調査では、伊勢平野だけでなく、伊賀地域や北勢地域の山間部でも生息が確認されました。

 ミナミアオカメムシはもともと熱帯等で生息していた昆虫であるため、分布が確認された地域で越冬できて、地域に定着できるかどうかが重要です。
 三重県農業研究所では、ミナミアオカメムシの分布拡大とともに発生した大豆などの農作物被害の対策とともに、ミナミアオカメムシが越冬可能な地域を予測する研究を開始しました。

ミナミアオカメムシの成虫
アオクサカメムシの成虫
ミナミアオカメムシと同様、三重県内に生息し水稲や大豆を加害する
背中にある白い三つの斑紋で見分けることができる

三重県における発生実態

 ミナミアオカメムシは多くの植物を餌にする昆虫であるため、水稲や大豆のほか、トマトやナス、キャベツ、トウモロコシといった野菜や、ナシやミカンといった果物を加害して被害を発生させます。特に植物の子実(種となる部分)を加害します。

 三重県では水田で水稲の他、転作作物として小麦、大豆が広域で栽培されていますが、いずれの作物もミナミアオカメムシの餌となるため、春から秋にかけてミナミアオカメムシの餌が豊富にある環境になっています。

 ミナミアオカメムシは、冬期、コノテガシワなどの樹木の込み合った葉のすき間で越冬することが確認されています。そして春になり徐々に気温があがってくると越冬場所を離れます。

 5月には小麦の穂が出ており、越冬場所を離れたミナミアオカメムシ(越冬世代)が良く観察されます。次世代のミナミアオカメムシ(第1世代)は農作物以外の植物で繁殖しているようです。

 その後、第1世代のミナミアオカメムシ成虫は水稲が穂をつけるころに飛来して、交尾、産卵して水稲で次世代(第2世代)が繁殖します。
 水稲では籾を加害されることで籾内の米に黒い加害痕ができる「斑点米」が発生し外観を損ね、ミナミアオカメムシの発生量が多い場合は収穫量の低下も招きます。

大豆の表面の黒い点がカメムシに加害された痕
茄子のヘタに近い部分のくぼみと白い点がカメムシに加害された痕

 水稲などで繁殖した第2世代のミナミアオカメムシが成虫になるころには、大豆が莢をつけ始めているため、大豆にも移動して交尾、産卵して、莢内部の子実を餌として第3世代が繁殖します。大豆では莢の外側から子実を加害して、大豆の品質を低下させるほか、発生量が多い場合は、収穫量が大きく低下します。第3世代のミナミアオカメムシは大豆が収穫されるまでに成虫となり、気温が低くなり始める10月下旬ごろから越冬場所に移動します。

ミナミアオカメムシの4齢幼虫
卵から孵ったミナミアオカメムシは1齢から5齢幼虫を経て成虫になる

越冬可能地域予測モデルの開発

 三重県内におけるミナミアオカメムシの分布の拡大状況を把握するために、ミナミアオカメムシの越冬が可能となる地域の予測に取り組みました。この研究のために2012年から2015年にかけて県内の小麦、水稲、大豆のほ場を広範囲に調査して、ミナミアオカメムシの分布を調査しました。特に小麦ほ場では越冬世代が観察されるため、重点的に調査を行いました。

 分布調査の結果、冬の気温が低い地域ではミナミアオカメムシの越冬世代が見つかる頻度が低い傾向が見られました。特に伊賀盆地では4年間で一度も越冬世代を確認できませんでした。三重県内でも気温が低い地域ではミナミアオカメムシが越冬しにくいことを示しています。

 その一方、冬期の気温が低い地域でも、前年に多発生した地域では、越冬個体が確認される頻度が高い傾向が見られました。このことは、冬の気温が低く、越冬時の生存率が低い地域であっても、越冬前の発生量が多い場合は越冬に成功する個体が出現することを示しています。

 このことから、冬期の気温と前年のミナミアオカメムシの発生量により、ミナミアオカメムシが越冬できる地域を予測することができると考え、4年間の調査データを用いてミナミアオカメムシの越冬可能地域の予測モデルを開発しました。

分布拡大に対する気候変動の影響

 ミナミアオカメムシが、その地域に定着するかどうかは、その地域の冬期の気温に左右されることが予測モデルにより改めて確認されました。2000年以降のミナミアオカメムシの急速な分布拡大の要因として冬期の温暖化が影響していると考えられています。三重県においても1980年代に比べ2010年代のほうが、冬期の気温が高い傾向が見られます。

 ミナミアオカメムシの越冬可能地域予測モデルを開発してから現在にいたるまでミナミアオカメムシの国内分布は更に拡大しています。
 現在、ミナミアオカメムシは関東地方で分布を拡大させており、2021年には栃木県南部でも確認されました。

 予測モデルでは、ミナミアオカメムシが越冬可能な地域は北関東が限界と予測されています。今後、冬期の温暖化が進みミナミアオカメムシの越冬可能地域が拡大して、本種の分布がさらに北進するかどうか注目されています。

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