2024.06.19
いま観光の現場で起きている変化(その4) ~海水温と生き物の変化、これからのこと~
旅館海月 女将
海島遊民くらぶ 代表 江﨑貴久
この記事は2023年9月15日に実施したヒアリングに基づき、
三重県気候変動適応センターが作成しました。
【海島遊民くらぶ】
海水温の変化
活動をする中で、海水温が上がっていることを肌で感じています。
10年少し前にカヤックツアーを始めた頃、ツアーを実施できるのは5月から9月までの5カ月間でした。いまは3月から10月まで実施しています。最近の水温を考えれば、最長で2月の後半から始めて11月半ばまで実施できるので、10年ちょっとで、5カ月が9カ月にまで伸びたことになります。
シュノーケルツアーを始めた頃は、タッパー(ウェットスーツの上のみ)がないと寒いと思っていたのが、いざ買ったら、もういらないというくらい暑くなってきて、スタッフは着用しなくなりました。
現在、夏の観光客にとっては、伊勢志摩は沖縄の代替地という位置づけになりつつあります。台風シーズンで飛行機が飛ばない、宿から外へ出られない等、沖縄観光のリスクが高い時期に、海辺の観光を楽しめるエリアということです。
首都圏に住む人たちにとって、熱海や伊豆では、沖縄の代わりにはなりません。距離が近すぎて、旅行が持つ非日常感に欠けるからです。首都圏から適度に遠く、暖かい海辺の観光地、それが今の伊勢志摩の立ち位置です。
海の生き物の変化
海島遊民くらぶを立ち上げた頃と比べると、無人島の海岸や磯だまりの生き物の種類も減りました。肌感覚で言うと、3分の1くらいになったと思います。
赤ウニがいなくなった、アワビがほとんどいなくなったということは、それらを食べていた生き物も、それらが食べていた生き物も両方減ったと考えられます。
思い出すままに、かつてはいつも磯場で見かけた可愛らしい生き物を挙げると、背中に海綿をつけて歩いていたカイカムリというカニが見えなくなりました。ミスガイもいなくなりました。
ミスガイは自前の美しい貝を背負っていますが、ウミウシの一種です。ミスというのは、高級で上品なすだれのことで、漢字にすると御簾です。貝に御簾のように細かい線が入っていて、色もあずき色というかピンクというかすごくきれいで、縁が水色で、さらにその縁は金色になっていました。
ハゼ科のキヌバリも見えなくなりました。絹織物を着たように美しい、オレンジと黒の縞の入った魚です。
イシコというナマコの仲間もあまり見えなくなりました。昔は石をめくったら全部にいたのに、今はあまり見かけません。
ヒトデ類の数も減りました。クモヒトデは岩をめくったら、うじゃうじゃいたのに、激減しました。今も岩をめくるとクロダイ等がたくさん食べにくるので、あれは、魚にとって大変な量のエサだったと思います。
クモヒトデは10分の1くらいに減ってしまった印象です。どこにでもいたイトマキヒトデもほとんどいなくなりました。
しかし、ヒトデについては、私たちが見るところより深い海女さんたちが潜る漁場では急増していると言います。アワビがいつもいる穴を覗くと、ヒトデがぎっしり詰まっているといったこともあるようです。
無人島ツアー等を始めた頃にも生き物が減っていくという感覚は多少ありましたが、こんなことになるとは思っていませんでした。
食用にする水産物については、鳥羽の人たちみんなが増えたとか減ったとか意識して見てきました。しかし、人間が食用にしない磯の生き物を20年継続して観察してきたのは、この地域ではほぼ自分たちだけだったと思います。今になって振り返ると、うちの果たす役割は大きかったし、重たかった、もっと活動しておくべきだったと感じています。
ここ10年近くは様々な活動や研究者が増え、モニタリングを始めてくれています。しかし、もう10年前から見ていた私たちについては、本当に後悔が残ります。
海岸や潮だまりの生き物の画像は、2004年頃から撮影してきました。まだ防水カメラの無い頃から、磯等へ行くと毎回、たくさんの画像を撮影していました。それを、コンピュータのシステムを入れ替えたりする中で無くしてしまい、今、手元にあるのは、ここ数年分の画像だけです。そのもったいなさといったらありません。
20年近くにわたる膨大な画像が残っていないのは本当に残念です。
その他の生き物の変化
海辺では増えていると思われる生き物もいます。特徴的なのは鳥です。
カヤックを楽しむ海域にある三ツ島は、昔から鳥のフンの被害が多い場所でした。
5、6年前からここにカンムリカイツブリが姿を見せるようになりました。最初1羽いると思ったのが2羽になり、次の年には5、6羽になり、今は冬に集団でいます。三ツ島以外でも見かけます。
島に集まる鳥の数が多過ぎて、木の枝に掴まりきれずに、枝から落ちる鳥が増えているように思います。小鳥なら茂った枝の中のほうに留まれますが、大きな鳥は入れないので、木の表面にいるしかありません。表面は枝が細くて不安定なので、鳥は風が吹くと落ちることがあります。その時、広げた羽根が枝に当たって羽根の骨を折ることがあり、その個体は溺れて死んでしまいます。
三ツ島 夏羽のカンムリカイツブリ(写真提供:三重県環境学習情報センター(撮影場所は滋賀県長浜市))
三ツ島では、昨年(2022年)からハヤブサを見かけるようになりました。三ツ島の一番外側の島にはハヤブサが好む崖のような地形になった場所があります。
また、町中にツバメがいる期間が長くなっています。二度目に生まれた雛が、2、3羽死にましたが、あれは熱中症だったのではないかと思います。
それから、海辺に限ったことではありませんが、サルがたくさん出てくるようになりました。
イノシシが街中を歩いていたとか、カヤックを楽しむ小浜の海岸で昼間からシカを見かけたこともあります。
今年(2023年)は、たまたまかも知れませんが、マダニに咬まれたという話をたくさん聞きます。海島遊民くらぶのスタッフや身内でも咬まれた人がいます。山に入っていったわけではない、サンダルで草むらを歩いてただけなので、どこで咬まれたかわからないのです。旅館やツアーのお客様に対しても、十分に注意するよう促しています。
地元のお医者さんによると、他の県では病院に行って、マダニを皮膚から取り除くとのことです。ところが、伊勢志摩は咬まれる人がすごく多いので、ピンセットを使って自分で取って下さいと指導しているとのことでした。
これからのこと
旅館の経営者として、海島遊民くらぶの代表として、これからも地域とともに、快適な宿泊、美味しい食事、楽しいツアーを提供していきたいと考えています。
しかし、海の食材、磯の生き物、海水温、陸の野生生物等、変化は私たちの周りのあらゆる場所で、現在進行形で起きています。将来、どのような状態になるのか、とても心配ですが、変化に対応するために、みんなで力を合わせていかなければならないと強く感じています。