三重県気候変動適応センター

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センター活動記録

2025.07.03

こだわりの木桶でつくる しょうゆ、みそ(その2)

伊勢蔵株式会社 
代表者 式井 一博

この記事は2024年8月26日に実施したヒアリングに基づき、
三重県気候変動適応センターが作成しました。

木桶醤油の味は、蔵元ごとに異なる

 同じ原料を使って、同じように仕込んでも木桶で作った醤油は、同じ味にはなりません。“あの蔵元で作った醤油はすごく売れているから、同じ原料を使って作ってみよう”としても木桶の場合、それは出来ません。それは、蔵元ごとに環境が異なるからです。
 それぞれの蔵と木桶には醤油に深い味わいをもたらす菌が棲みついています。棲みついている菌の種類は桶ごとに異なります。ステンレスやホーローは、基本的にタンクに棲みついている菌はいないので、新しい菌を入れてそこから醗酵をスタートさせます。木桶は、醗酵のために菌はつけるのですが、さらに棲みついている菌も作用し醗酵時に影響を及ぼすことから、出来上がった醬油にも個性が出やすくなります。

 他の蔵元の味を真似ようとしてもできないですし、逆に私の蔵元の味は真似できない。実はそれこそが木桶で醤油を作る蔵元が集まりグループで活動できる理由なのです。
 また、他の蔵元と一緒に展示会へ出品しますが、展示会に来場されたお客さんからこういう醤油が欲しいと言われたら、このグループの醤油には、こういう味のものがありますと説明し、何品か紹介させてもらい選んでもらっています。私は、他の蔵元の醤油のことは説明できますし、反対に他の蔵元も私の醤油のことを説明できます。このように蔵元ごとに味の違いがあるというのが、私たちメンバーの強みです。最終的には消費者の好みにはなるのですが。

いろいろな醤油と原材料

 一口に醤油と言っても、いろいろな種類があります。
 “たまり”は「たまり醤油」とも呼ばれます。原料の割合で言うと、大豆が9割、小麦が1割で、大豆の割合が多い醤油です。大豆は、旨味成分のため、“たまり”というのは大豆の旨味をたっぷり含んだ醤油です。
 “たまり”とは反対に、原料の割合が概ね、大豆1割、小麦9割で作る醤油が「白醤油」です。「白醤油」はかなり色が薄く、やや旨味がないですが、代わりに小麦独特の香りと甘さがあります。
 一般消費者に一番なじみがあるのが「濃口醤油」です。また「薄口醬油」というのもあります。濃口醤油と薄口醤油のどちらも原料の大豆と小麦の割合は、半々くらいです。
 「濃口醤油」や「薄口醤油」は、大豆の旨味と小麦の香りや甘みとのバランスがとれた醤油です。

 また、色が濃い醤油は、基本的に熟成期間が長いです。逆に色が薄いと熟成期間は短くなっています。ちなみに伊勢蔵では、「濃口醤油」や「たまり醤油」は1年半、「白醤油」は2か月の熟成期間としており、このように醤油の種類によって熟成期間は、異なってきます。
 なお、大手の醤油メーカーでは、「濃口醤油」は5か月くらいで出荷しているようです。しかし、熟成期間が短いから良くないということではありません。味や香りの癖が少ない醤油を作りたい時には、熟成期間は短い方が良いのです。

醬油ができるまで

 伊勢蔵では、毎年1月から4月の4か月間で醤油の仕込みをします。大豆を蒸して、醤油の麹を作り、木桶に仕込んでいく作業を行います。
 仕込みが終わると5月頃から発酵が始まります。発酵が進んでいる5月から8月の間は木桶に仕込んだもろみを混ぜて管理します。9月になると、発酵がおさまるので、なるべく木桶内を攪拌(かくはん)しないように静かに置いておきます。発酵が終了してからの熟成期間が長いほどその蔵の香りや味がよく出ます。充分に熟成させ、もろみが絞れるようになったら、醤油を絞る作業に入ります。絞る作業は、早くて仕込みから1年、遅ければ2年、平均では1年半程度です。
 言いかえると、長く寝かせたもろみから絞った醬油は、その蔵元の独自の個性が際立ちますが、癖が強く出るとも言えます。逆に寝かせる期間が短いと個性の弱い醤油ができあがります。そこで、長く寝かせた2年物と短く寝かせた1年物をうまくブレンドし、伊勢蔵の醤油の香りや味に整えることもあります。

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