三重県気候変動適応センター

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フィールドワーク

2020.03.25

防災も温暖化も、意識が変われば行動は変わる

避難所開設の準備

津市自主防災協議会会長 渡邊 修三

■ 津市自主防災協議会の取組

 津市自主防災協議会会長、津市の修成地区自主防災協議会会長を務めています。

 修成地区では、毎年1回、避難所に指定されている修成小学校とセントヨゼフ女子学園を会場に防災訓練、避難所運営訓練を実施しています。今年(2019年)の訓練には約800人が参加しました。

負傷した人への対応

 訓練はそれなりに実施できますが、実は修成地区には約1万人が住んでいます。他にも避難所はあるものの、一か所当たりの収容規模は300人から500人で、実際に大規模な避難が必要になった場合は人があふれてしまいます。特に、南海トラフを震源とする大地震が発生した際には、修成地区は津波浸水想定区域に入っているため、地区外に避難する必要があります。

 このため、近隣の2地区と高台にある南が丘地区の4地区で広域的な避難のあり方について協議しています。津波が来れば、3地区から避難者が南が丘地区に押し寄せる。南が丘地区には何のメリットもないのですが、拒んでも、来る者は来るのだから、徹底して受け入れる対策をとろうと言ってくださった南が丘地区の皆さんには、大変感謝しています。

■ 防災カード導入の取組

 自主防災会の取組として、他に力を入れているのは、災害時に必要となる個人情報の「QRコード化」です。検討開始から3、4年かけて、ようやく実施段階にきました。まず、自分が自治会長を務めている弓屋敷自治会で試験的に導入しようとしています。

防災カードの見本

 仕組みとしては、住民の一人ひとりが自分の個人情報を記載した防災カードをいつも持ち歩くようにします。

 防災カードは作ったら本人に渡して、紙で提出された元データは廃棄し、パソコンの中のデータもすべて消去します。これで本人の手元以外には個人情報は残りません。防災カード上の個人情報は、文字ではなくQRコードとして印刷されているので、普通に見ただけでは記載された内容は読めません。

 QRコードには、名前、住所、年齢、生年月日、血液型、性別を記録します。その他、備考欄に、どういう薬を飲んでいる、どの病院にかかっている等の情報も入れてほしいとお願いしています。

 弓屋敷自治会では、避難訓練や防災訓練を行う際、どう避難するか、要介護者をどうするか等、検討を行っています。避難所に行った時の一番の問題は、受付に避難者が集中し、事務処理がどうにもならなくなること。受付に30分から40分かかってしまう。もしQRコードの付いた防災カードを持っていれば、一人当たりの受付は1秒か2秒で済みます。

 また、避難所開設時だけでなく、防災カードを身に付けていれば、徘徊した時や、交通事故にあった時でも、いち早く対応してもらえます。

 カードの名称は、「修成地区 愛あい防災カード」といいます。

 津市自主防災協議会は62地区に分かれていて、そのうちの1つが修成地区です。修成地区には、28の小さな自治会がありますが、弓屋敷自治会を含む4つの自治会が防災カードに関心を持って、弓屋敷自治会がやることをみて、よかったらやりましょうよと言っています。私の考えとしては、まず弓屋敷自治会で始めて、修成地区全部、そして、津市全域、三重県に広めていければ良いと思っています。

個人の意識を変えれば、地域は変わる

 防災でも温暖化でも、基本的に言えるのは、個人の意識の問題だということです。個人の意識が変わらなければ、何も動かないし変わらない。

 弓屋敷自治会には、全部で360世帯、約900人が住んでいます。防災カードの用紙をどれだけ配布しても、賛同して提出してくれるのは、おそらく200~300人でしょう。なぜかというと、結局、個人一人ひとりが、災害をどのように考えているのかの問題だからです。

 ある程度年配の人は、なぜカードを作るのか、もう70歳すぎたからいつ死んでもいい、津波がきて死んでもいいと言われます。そういう人には、あなたにとっては死んだ方が楽だと思うかも知れないが、あなたを探す身内や周りの人、自治会はどれだけ苦労するか分かるか、と話をします。

 それから、自治会の行事に参加して下さいと言っています。参加すれば参加しただけ意義がある。参加すればお互いのことがよく分かるし、手助けもしやすい。運動会、ミカン狩り、いちご狩り、潮干狩り、タケノコ掘りなど様々な行事を企画して、だいぶ参加者が増えてきました。

 月2回、自治会だよりを出しています。その中で2か月に一度は、風水害や地震の防災に対して、どうしていますか?家は海面から何メートルありますか?地盤はどうですか?回り近所に崩れるところはないですか?避難するとき、逃げる場所はどこですか?逃げるルートは決めてありますか?枕元に非常持ち出しのリュックの準備はしていますか?そういうことを書いています。

 ここのところ、台風がたくさんきているので、みなさん風水害については真剣になっています。今が働きかけのタイミングだと思っています。

■ 気候変動影響の現状と将来リスク

 修成地区は海抜がだいたい1.5mくらいです。浸水被害にあいやすく、地区内でも、特に低いところでは、家を新築する時には地盤を上げて建てています。

 気候の変化によって、浸水被害がひどくなっているかどうかは分かりません。ただ、半田や南が丘等の周辺の高台に降った雨が、そのまま修成地区に流れてくる傾向はあります。水は最終的には、その先の岩田川に流れていきますが、川の手前で水が滞留して、修成地区をはじめ岩田川沿いの地域は水に浸かりやすくなっています。

 それもあってか、現在、津市では、新たに雨水管を地中に埋め込む工事をしています。他にも、行政によって、護岸工事や河川の浚渫(しゅんせつ)、排水施設の整備など、様々な対策が講じられています。

 温暖化がこのまま進行した場合、風水害による市民生活への影響は大きいと思います。

 地球の温暖化は、祖先も含め自分たちが引き起こしたことだから、直さないといけない。温暖化の原因を止め、これ以上影響を増やさないようにする必要があります。

 それには、市民一人ひとりが温暖化を自分のこととして認識するしかありません。風水害対策でも、自分のこととして認識すれば、自分の家はどうなっているのだろう、家族の連絡先の確認、逃げる場所、避難経路の確認など自然と考えていけます。

 温暖化対策として国や自治体が何をするかは大切ですが、一番重要なのは、それを市民にどれだけ伝えられるか、どうやって伝えるかです。市民が真剣になって、気候や温暖化のことを自分で考えてくれれば、温暖化対策はもっと前に進むと思います。

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