2020.05.20
ネコギギの保全活動
学校法人享栄学園 鈴鹿高等学校
■ ネコギギとは
ネコギギはナマズの仲間で、伊勢湾と三河湾に流入する河川の中流・上流部にしか生息していない希少な淡水魚です。
ネコギギにとっての最適な環境は、河川改修などが行われていない自然の川です。水がきれいで、流れが緩やかな淵をネコギギは好みます。浮き石の下の空隙を棲み処と繁殖場所にしているので、そのような構造のない場所は生息に適しません。
そのようなネコギギの生息に適した環境が、護岸工事などの河川改修によって次第に失われたことで、生息数が減少しました。また、ネコギギは「日本固有の動物で著名なもののうち、学術上貴重で、我が国の自然を記念するもの」として、1977年に国の天然記念物に指定されました。
■ ネコギギの保全活動
鈴鹿高校自然科学部では、亀山市から特別に許可を得て、2004年から鈴鹿川水系のネコギギの生息調査を実施しています。
調査を通じて、2008年にはネコギギが高い密度で生息している地点を新たに確認しましたが、生息場所としては極めて脆弱な状態であることも判明しました。
また、鈴鹿川水系以外では、数千個体が生息している河川もありますが、鈴鹿川水系には、数十個体の個体群が点在しているだけです。
こうした状況を重ね合わせて考えると、鈴鹿川水系のネコギギはいつ絶滅してもおかしくない環境下にあるということが明らかになってきました。
そこで、ネコギギの絶滅を回避するため、2017年より亀山市と協定を締結し、ネコギギの生息域外保全を開始しました。
具体的には、6月下旬から7月に成魚を捕獲して、台風の多い7月から11月までの期間、部室で飼育して、もとの川へ戻しています。部室での飼育中に生まれた稚魚は、捕獲した地点への放流、新たな好適地への放流、部室内における3年間の継続飼育のいずれかの措置を専門家の指導を受けながら行っています。
2018年には、前年に放流したネコギギの稚魚が成魚になっているのが確認され、飼育後、川へ放流したネコギギが野生の状態に順応できていることが明らかになりました。
■ 気候変動影響の現状と将来リスク
ネコギギの生息環境が失われた大きな原因は河川改修ですが、調査を行ってきたこの15年間を振り返ると、集中豪雨や台風による土砂の流入が大きな脅威となっています。
一例を挙げると、2008年に確認した高密度での生息地点は、直後の豪雨により、土砂が生息場所を埋めてしまい、その地点の生息数は1/3にまで減少しました。
この地点の状況を継続的にモニタリングしてきたところ、2009年以降、堆積土砂が減少傾向になり、生息数が回復してきましたが、2016年からは、再度、土砂が堆積し始め、昨年(2018年)は、台風によって、とうとう陸地のような状態になってしまいました。
2014年、2017年のように水深が浅い年は、繁殖に失敗していたことから、水深分布と繁殖の成否には、関係があることが分かっています。
その一方、最近の河川改修工事では、「ネコギギブロック」や「かごマット」など、ネコギギが棲み処として使える構造物を工事にあわせて設置するなど、生息環境を保全する工法が採用されています。
また、自然科学部による部室での繁殖も順調に成果を上げています。繁殖を始めた2017年に育った稚魚は9匹でしたが、2018年は68匹、今年(2019年)は8月末の時点で120匹の稚魚が育っています。これらは、ネコギギの保全にとっては明るい要素です。
しかし、今後、さらに温暖化が進行し、台風の巨大化や豪雨の発生回数が増加すれば、その影響は極めて大きいことが懸念されます。
行政には、引き続き、河川工事を行う際には、ネコギギなどの生物や自然環境への配慮を期待したいと思います。集中豪雨が増えることを前提にした砂防ダムの適正な管理や、山からの土砂流出を防ぐように森林を健全な状態で保つ取組も必要だと思います。
さらに、ネコギギを地元の財産として広く認知してもらい、地域住民による保全活動が進められるような普及啓発も重要です。行政や地域住民等、関係者が一体となって保全活動が進められるよう、鈴鹿高校もその一翼をしっかりと担っていきたいと考えています。