三重県気候変動適応センター

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フィールドワーク

2020.04.16

高い水温でも育つ黒ノリ「みえのあかり」~生産者の視点から~

鈴鹿市漁業協同組合 組合長 矢田 和夫

■ 黒ノリの養殖とは

 黒ノリの養殖は、種付け、育苗、沖出し、収穫の順に作業が進みます。

 鈴鹿地区でのノリの種付け作業は、海上採苗といって海の上に網を浮かべて行います。ノリの種を付け終えた網は、岸近くに立てた竹の支柱に張り込みます。これを育苗といいます。
 満潮の時は網が水面より下に、干潮の時は網が水面より上に出るような高さに張ります。大潮の日の干潮で、4時間くらい水面上に出ているのが、張る高さの目安です。ノリは乾燥すると細胞壁を厚くするという性質があるため、ノリが海水に浸かったり、太陽や風に当たったりを繰り返すことで、ノリの芽は強く健全に育ちます。ノリが1cmから2cmぐらいに育ったら、いったん網ごと冷蔵庫に保管します。

 水温が18℃以下になったら、網を沖に設置した養殖筏に張り込みます。今度は網がずっと水中に浸かったままにします。これが沖出しです。
 沖出しして、だいたい15日くらいで、ノリは20cmから30cmくらいまで生長します。そうすると、最初の収穫ですね。これを一回摘みと言います。ノリの根元のほうを5㎝くらい残して摘み取って、また、10日ほどしたら、二回目の摘み取りができます。その後も、同じ網で、伸びたら取って、伸びたら取ってを繰り返します。

 本来、ノリの種は、水温が23℃以下でないと網にうまく付きません。最近は、水温が下がらなくなってきて、従来の種では失敗することが多くなってきました。網に種が付いたと思っても、育苗中の育ちが悪かったり、くびれが出たりします。くびれが出るというのは、ノリがきれいな形に育たないということです。

 県の水産研究所が作ってくれた黒ノリの新しい品種「みえのあかり」に代えてから、水温が23℃前後でも、種の付きが良くなったし、育苗の際の生長も順調です。くびれも少ないし、製品(板ノリ)にしてからの表面の肌が良いです。くびれのあるノリは製品にすると、がさつきが出ます。「みえのあかり」を入れた最初の年は良いノリばかりで、ノリの等級も上位で肌がいいしツヤもよかったです。

■ 養殖を始める時期の変化

 ノリの養殖開始の時期は、この50年ほどの間に確実に遅くなっています。

 昭和48(1973)年頃は、10月1日がノリの種付けと決まっていました。現在では、10月1日だと水温は24℃から25℃ぐらいあります。今から20年以上前、平成10(1998)年頃は、10月7日頃に種付けが始まっていました。

鈴鹿地区におけるノリの種付け日

 昨年(2018年)は、10月15日に種付けをして失敗しました。育苗の途中でノリの芽が全部、網から剥がれ落ちてしまいました。23℃を切った水温が徐々に下がってくれればいいのですが、水温がいつまでも21℃から22℃あたりを行き来していると、育苗中のノリが健全に育ちません。

 最近は、10月になっても北西の風が全然吹かないというのも実感としてあります。北西の風が吹いていたら、ノリの芽が多少生長しすぎていても2時間もあれば乾きます。今のような暖かい南東の風、東の風が吹いている状態では、4時間たっても、ノリの芽は温かくなるだけで、ほとんど乾きません。それが蒸れることにも繋がっています。

 黒ノリの養殖は、一枚の網に複数の品種を種付けします。黒ノリの養殖において、海水温は重要な要素ですが、他にも病気、海水中の塩分濃度と栄養分、食害など様々な要素が養殖には関係しています。品種ごとに長所と短所があるので、養殖事業者は、様々な条件を考え併せて、常に一定の品質と収量が確保できるよう、品種を組み合わせています。

 うちの場合は「みえのあかり」ともう一種類、別の品種を組み合わせています。県内の鈴鹿以外の地区では、「みえのあかり」を使う事業者が減っていると聞きました。あまりに水温が高く、下がり方も不安定なため、育苗中のリスクを考え、十分に水温が下がってから養殖を開始したいと考える事業者が増えているのだと思います。

 水温は冬に向かって自然と下がっていくのが理想です。「みえのあかり」を使っていても、沖出しをしたノリが生長していく時には水温が16℃くらいに下がっていないと良いノリは出来ません。

 鈴鹿地区では、今年(2019年)は結局、10月22日に種付けをしました。

■ 海の様々な変化

 鈴鹿でノリ養殖をしている漁業者は、11月から3月まではノリ養殖を行う他、3月4月はコウナゴ漁、4月から7月はアサリ、バカガイ、トリガイの漁、7月から12月はイワシ漁と、一年を通して海の仕事があります。

 コウナゴはここ5年まったく獲れなくなっています。イワシは周期的に来ます。マイワシは一説に20年周期と言われていて、今までもマイワシばかり獲れる時がありました。そういう時は、カタクチイワシはいなかったのですが、今年(2019年)は、カタクチイワシが少しずつ増えてきていて、今はカタクチイワシとマイワシは半々くらいです。アサリは減っていますが、トリガイは増えています。こういう変化は、海水温の上昇とどう関係があるのかないのか分かりませんが、変化としては感じています。

 黒ノリに関しても、ここ数年は、海水温の上昇とは別に、ノリの色落ちが深刻になっています。高水温に強い「みえのあかり」を使いだしてからは、鈴鹿地区のノリ養殖に一定の効果がありましたが、今は、色落ちが最大の問題です。

 色落ちしたノリは味も見た目も悪く、売値も半分以下になってしまいます。色落ちの原因は、海水中の窒素やリン等の不足だと考えられています。黒ノリが最も育つ1月や2月に、ある程度まとまった雨が降ってくれれば、窒素やリン等を含んだ水が、川から伊勢湾に流れこむのですが、この時期、なかなか雨は降りません。

 温暖化等の気候変動と関係があるのかも知れないと思うのは、暖かいところの魚が増えてきていることです。今年(2019年)は伊勢湾の中に、ツバス(ブリの子)、ヨコワ(マグロの子)まで入ってきました。3、4年前からはサワラが良く獲れています。サワラは、昔はいませんでした。

■ 気候変動影響の現状と将来リスク

 温暖化の影響を一番受けるのは海藻類だと思います。3年前、和歌山県の串本に行った際、漁協の組合長さんから、昔は岩にひじきがたくさん生えていたのが、今はまったく無くなった、岩に何もくっついていないと聞きました。黒ノリは暖かいところでは育たないので、今のままだと、ノリの養殖適地は北上していくと思います。伊勢湾では最北部の桑名あたりでしか養殖できなくなるのではないかと危惧しています。県には、色落ち対策や、高い水温にも耐えられる、さらなる品種改良を期待しています。

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