三重県気候変動適応センター

MENU

フィールドワーク

2020.03.19

お茶栽培の決め手は水

三重県中央農業改良普及センター提供

元三重県農業改良普及員 農業 福井 敏

■ 春の茶摘み

 三重県に在職中は農業関係の技師として働いていました。農業改良普及員として現場に関わっていた期間が一番長いです。最初の配属先が茶業センターで、家でも小規模に米やお茶を作っています。公私あわせると40年以上、茶づくりに関わってきたことになります。

 三重県の茶の産地は、北勢地域と中南勢地域に大きく分かれます。私が住んでいる度会町を含む中南勢地域のお茶栽培についてお話したいと思います。

 県職員になった40年ほど前は、新茶の取引が始まる初市は、ちょうど八十八夜に当たる5月2日頃でした。最近は4月末が初市です。40年の間に、4日から5日早くなっています。新茶の摘み取りも、初市にあわせて4日から5日早くなっています。

■ 秋の整枝と翌春の芽吹き

 お茶の収穫は、一番茶が4月の末から5月の初め、二番茶が6月の中旬、そのあとはずっと収穫しません。静岡県では三番茶を収穫する農家もかなりありますが、三重県ではほんの一部です。

 夏が過ぎて、秋には整枝を行います。これは、翌年の春に、お茶の摘み取りができるように枝を整える作業です。この時期の見極めが大事で、一日の平均気温、あるいは朝の9時くらいの気温が17℃の時が一番良いと言われています。また、整枝後、お茶の木は新芽のもとを準備し、生育停止期に入り、翌春に向けて養分を蓄えます。

秋の整枝後の茶畑(三重県農業研究所提供)

 秋に行う整枝の時期は、40年ほど前は、10月10日の体育の日に行うと良いと言われていましたが、最近は10月20日から30日頃に整枝をすることが普通になりました。

 気温が高い時期に整枝してしまうと、お茶の木は秋のうちに芽吹いてしまいます。これを再萌芽といいます。逆に、整枝が遅すぎると、来年の春の新芽のもとを準備できなくなります。

 整枝が遅いと、翌年、寒さが和らいだ3月頃になってから新芽のもとを作るので、新茶を摘み取れる時期が数日から一週間ほど遅れてしまいます。お茶の相場は初市が一番高くて、その後は、一日単位で値が下がっていきます。一週間の遅れは、お茶を市場に出荷する農家にとっては大変な打撃です。

 初摘みが早くなり、秋の整枝が遅くなっているので、お茶の木の生育停止期間は、二週間くらい短くなっています。生育停止期間中も光合成は行われ、翌春に向けて木が養分を蓄えるので、理屈の上では、お茶の品質は低下すると言われています。

 この傾向は静岡や鹿児島などの全国の茶産地も同じだと思われますが、幸いなことに、日本のお茶の品質が昔と比べて悪くなったという話は、全く聞きません。

■ 気候変動影響の現状と将来リスク

 気候変動の影響ですが、高温になることより、土壌水分が足りなくなることのほうが、お茶にとってはダメージが大きいです。

 夏に干ばつになると、秋の時点で木に元気がなく、翌春の新芽の芽吹きも悪くなります。通常の茶園では次々と新葉が展開して、5~6枚ほど出ますが、木が弱っていると2、3枚しか出ません。展開葉数がたくさんあるほうが、柔らかくて美味しいお茶ができるので、収穫量、品質ともに影響があります。

お茶の木に咲いた花

 また、干ばつになると、お茶の花が咲くということは、昔から言われていました。お茶の花は小さな白い花です。実は毎年、花は咲くのですが、通常の年は数が少ないので、それほど目立ちません。最近は、3、4年に一度はたくさん咲いているのを見かけるようになりました。

 30年前40年前にも木が弱る、花がたくさん咲くということが、時に起こっていたはずですが、実感としてはあまりありませんでした。最近は、枯れていくのではないかと心配して水をやるという状況になっており、昨年(2018年)の7月も中下旬の約20日間、殆ど雨が降らず日中は新芽がしおれていました。スプリンクラーのような、茶畑全体に水を供給できる設備があれば、干ばつで雨が降らなくても大丈夫ですが、三重県の中南勢地域で、そのような設備のある農家はおそらくありません。

 すでに、温暖化の影響は十分に感じています。将来、もし夏の干ばつがひどくなるのであれば、お茶の栽培にとっては大変な脅威だと思います。

TOP