三重県気候変動適応センター

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フィールドワーク

2020.03.30

炭疽病に負けないイチゴ「かおり野」~生産者の視点から~

ハウスいっぱいに植えられたかおり野の苗
かおり野の苗が一面に植えられた西村さんのハウス

JA伊勢いちご部会長 西村 彰

■ イチゴ栽培のいまとむかし

 JA伊勢のいちご部会長を務めています。いちご部会というのは、イチゴの共同出荷を行う生産者グループのことで、育てたイチゴはJAに出荷し、伊勢市内や四日市市内の青果市場へ卸しています。

ハウスの前でイチゴ栽培について説明する西村さん(左)

 伊勢市周辺は、三重県内ではイチゴの栽培が盛んな地域です。この地域のイチゴ栽培は、昭和40年代から始まりました。

 最初は「宝交早生」等を栽培していて、昭和60年代になると「女峰」や「とよのか」を栽培するようになり、その後、栽培の主力は「章姫」に移りました。

 イチゴの生産者にとって、最も心配なのは、炭疽病の蔓延です。炭疽病は、感染力が強く、イチゴの苗を全滅させることもある恐ろしい病気です。高い気温で発症しやすく、雨や水やりによっても感染が広がります。

 私がイチゴ栽培に本腰を入れ出したのは15年前からです。三重県が開発した新しい品種「かおりの」(※)の、栽培を始めて、今年(2019年)でちょうど10年になります。「かおりの」には優れた特徴がいくつもありますが、生産者の立場から言うと、炭疽病に強いことが、とにかくありがたいです。

 ※品種名は、正しくは「かおり野」だが、店頭等では「かおりの」が使われる。

■ 「かおりの」と「章姫」

 「かおりの」は県内のイチゴ生産者に広く受け入れられていると聞いています。

 今、伊勢市周辺で栽培されているのは、「かおりの」が53%、「章姫」が45%です。県内では、「章姫」の方が優勢なところもあるようです。

 昨年(2018年)の夏はとても暑い夏でした。イチゴの生産者にとっては好ましくない気候です。各地の生産者が秋の植え付けに向けて育てていた「章姫」の苗に、炭疽病の感染が日に日に広がり、大量の苗を廃棄しなければならなくなりました。伊勢地域でも「章姫」は苗不足になりました。

 「章姫」は、果実が大きくて酸味が少なく、とても甘いイチゴです。私も昨年(2018年)までは「章姫」と「かおりの」を栽培していましたが、炭疽病のリスクをできる限り避けたいと考えて、今年(2019年)からは「かおりの」一本にしました。

 「かおりの」は、暑い夏でも花芽が遅れることが少ないので、9月中旬にはハウスに植え付けができます。植え付けたあとは、ずっと連続して花が咲きます。これは、ずっと連続して収穫ができるということです。

 「かおりの」は、甘さと酸味のバランスが絶妙な、とても美味しいイチゴです。生産者のひいき目かも知れませんが、1月から2月の一番美味しい時期の「かおりの」と他の品種を食べ比べていただきたいし、「おいしさでは負けていない」と自負しています。

■ 気候変動影響の将来リスク

 イチゴが花芽を作る条件のひとつが、気温が一定以下になることです。今後、気温が上がると、花芽の時期が遅れ、イチゴの収穫開始が遅れると思います。もし、将来、3月の気温が、今の4月の気温と同じになってしまうと収穫期間が短くなるかもしれません。気温が高くなると、害虫も増えます。ハウス内に入られてしまうと、そこで越冬するので、駆除等の作業がより煩雑になります。

 いまのところ、暖冬による大きな影響は受けていませんが、ハウス内の気温が高くなりすぎないよう、遮光(熱)シートをかける必要が出てくるかも知れません。

 ゲリラ豪雨が増加すると、育苗培土の跳ね上げが起きやすいため、イチゴの苗が炭疽病にかかりやすくなります。

 また、パイプハウスによるイチゴ栽培では、収穫後から夏はパイプがむき出しで、定植後の10月後半になったら、パイプの上にビニールシートをかけます。ビニールシートをかけた後に台風が来たら、ハウスは風で飛ばされてしまいます。将来、台風が11月にも多数来ることになれば、その影響は大きいです。

 私のハウスは、ガラス等を使った鉄骨ハウスなので、50m/sの風速に耐える設計ですが、この前の台風15号(2019年台風第15号)は最大瞬間風速が60m/s近かったはずです。より丈夫なハウスが必要となれば、その建設コストは当然高くなるでしょう。

 地球温暖化などによる気候変動は、気温、雨、台風など様々な面から、イチゴ栽培に大きな悪影響を及ぼす恐れがあると思います。

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