三重県気候変動適応センター

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フィールドワーク

2020.04.15

乳牛は夏の暑さが苦手

乳牛

三重県畜産研究所

■ ホルスタインという牛 乳牛の飼育方法

 日本で飼われている乳牛のほとんどは、白と黒がまだら模様になっているホルスタインです。

 ホルスタインの原産地はオランダです。日本には、明治以降に入ってきました。日本より夏の気温が低く湿度も低いオランダ原産のホルスタインが、湿度が高く夏が暑い日本での飼育に適しているかというと、実は向いていない、と昔から言われてきました。

 牛舎内の温度が、25℃から27℃を超えてくると、ホルスタインは次第に熱のストレスを感じ始め、牛乳の生産量が低下してきます。

 高い温度が牛乳の生産量を低下させ、人間と同じように牛も夏バテして、暑くて餌を食べられなくなります。餌を食べないと、牛乳を作るエネルギーが足りなくなって、乳量は低下します。だいたい6月頃から乳量が落ちていって、11月頃から徐々に回復してきます。

 牛乳が出るのは、子どもを産んだ後の牛だけです。バラツキはあるものの、乳牛は一回子どもを産むと、305日ほど毎日ずっと牛乳を搾ることができます。

生後約1ヶ月齢の子牛(ホルスタイン種)

 牛乳を搾るために、通常は人工授精により牛を妊娠させますが、受胎率も暑さのストレスで低下します。なかなか妊娠しないと、当然、次の分娩が遅れて、牛乳の生産が効率的にできなくなります。種付けがうまくいかなくなることが、暑熱の最も大きな問題です。

 乳牛飼育の理想は一年一産です。搾乳するのが305日、搾乳しないで牛を休ませるのが60日(2か月)で、合わせて365日。牛乳を搾らない2か月は、分娩が近づいている妊娠後期にあたります。

 この365日のサイクルがずっと続いていくのが理想形ですが、技術的には難しくて、なかなかそのようにはなりません。母親が持っている能力や健康状態等、様々な要因が考えられます。

■ 乳牛の高温対策

 乳牛の高温対策としては、まず飼っている環境の改善があります。基本的には、換気扇、細霧装置(ミスト)による家畜への直接送風と噴霧です。

 他にも、石灰を屋根に吹き付けて、光を反射させて熱を下げる方法もあります。屋根の温度が下がるということは、屋根の下の温度も下がるので、牛舎内の温度も低下します。最近では暑熱対策用の塗装剤が販売されており、一般家庭の家屋等でも塗装剤で屋内を涼しくする方法も知られていますが、こちらは石灰に比べて、現段階では、コストが高い状況です。

 屋根の上にスプリンクラーをつけて、定期的に屋根の上を水で濡らす方法もありますが、霧ではなく水であるため、牛舎周辺の湿度が高くなってしまうこともあるようです。

 当研究所では、牛舎内に大型の換気扇を設置し、ある一定の温度になったら牛に風を直接あてたり、中の空気がこもらないように換気しています。また、細霧装置が換気扇の周辺に設置されており、牛舎内の温度が27℃以上に達した際に水が自動的に噴霧されるようになっています。これは、気化熱を利用した冷却方法のひとつです。

 例えば、犬が走った後や暑い時に、ハァハァと口を開けて息をしている時があります。この呼吸をパンティングといって、上昇した体温を下げるための行動で、同じような行動は乳牛でも見られます。細霧装置を導入する前は、パンティングしている乳牛が多数いましたが、細霧装置を入れた結果、パンティングする牛が少なくなりました。

 餌のやり方にも工夫があります。
 牛には4つの胃がありますが、微生物がいる一つ目の胃が、牛のエンジンのようなものです。この一つ目の胃を良好かつ健全に保つため、消化の良い餌を与えたり、餌にビタミンやミネラルを追加するということを行います。また、夜間の涼しい時間帯に餌をやるという方法もあります。

 当研究所では、いつでも食べられるように、常に餌があるような状態にしてあります。夜間に様子を見に行くと、涼しくなってから餌を食べていることもあります。

 国レベルの研究では、暑熱に関する研究が行われていますが、当研究所では、乳牛の高温対策に関する研究はこれまで取り組んでいません。
 過去に、県の農業大学校の学生たちが、牛の毛を刈って涼しくさせる研究を行ったことがあります。

 暑さに対する乳牛のストレスの指標のひとつに暑熱ストレス指標(THI)というものがあります。人間でいう不快指数のようなもので、温度と湿度の関係から、乳牛のストレスの有無を計算します。この指標を用いると、7月から9月には、ミストを施していたにも関わらず、日中の牛舎内は「重度暑熱ストレス」環境下になることもありました。この環境下で、毛刈りをした牛としない牛の状態を比較したところ、毛刈りの効果は顕著に現れませんでしたが、乳量や乳質に若干の違いがありました。1回の試験だけでは毛刈りの有効性を証明できませんが、暑熱対策として興味深い結果でした。

■ 気候変動影響の将来リスク

 温暖化が進行した場合、乳牛への影響は大きいものと思われます。ただし、近年、温暖化が問題となる以前から、夏の暑さによる生産性の低下は課題となっていました。

 温暖化の影響は、すでに三重県内においても出ていると思われます。具体的には、乳量や受胎率の低下が生じていると思われます。近年は気温が上がってきていることから、牛のストレスがますます高くなっています。

 県内の具体的なデータは、各農家を調べてみないと分かりませんが、全国的にも同様の傾向があり、農林水産省がまとめている資料では、7月から9月の月別の乳量は、他の月に比べて低下しています。これは国内で一番冷涼な北海道でも同じことです。国からの暑さに対する注意喚起も頻繁に出されるようになってきています。

三重県の月別生乳生産量 2016-2018 (出典:農林水産省 牛乳乳製品統計調査より作成)

 温暖化の直接的な影響であるかどうかは分かりませんが、暑さ以外で言うと、三重県には、昨年、今年ともに大型台風が相次いで来ました。台風による強風の影響で研究所内の牛舎の屋根が飛ばされました。

 温暖化の影響で暑さだけではなく、台風や洪水等の自然災害に被災するリスクも将来的には増える可能性があると思われます。

 その他にも間接的な影響として停電があります。停電が発生すると、搾乳機器は電気で動くため、牛乳が搾れなくなります。1回でも時間通りに牛乳が搾れないと、乳牛は、乳房に炎症が起きる乳房炎になってしまいます。

 当研究所での搾乳は、7:00と16:30に1日2回行います。昨年(2018年)9月に台風21号が三重県を通過した際、停電が発生しました。停電の復旧が遅れたため定刻の16:30に搾乳を開始することができませんでした。停電が復旧したのは、19:45で約3時間程度ですが、搾乳が遅くなってしまいました。

 このように、1回でも搾乳作業がずれてしまうと、次の搾乳の際、乳量が低下することもあります。

 気候変動による今後の気温上昇を考えると、現時点で有効な対策は、とにかく乳牛を涼しい環境で飼育することに尽きると思います。

 乳牛の品種改良は、現在も進んでいます。ただ、改良で目指しているのは、牛乳をたくさん搾ることができる牛を作り出すことが主眼です。暑さに強ければ、牛乳を出す量が少なくても良いということにはならないので、暑さに強いという目的を第一にした品種改良は行われていません。

 ミストや換気扇の設置は、すでに行われていますが、暑さに強い牛を作るということは、すぐにできるものではありません。繰り返しになりますが、先ずは、牛舎の暑熱対策や環境改善を図ることが重要と考えます。

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