三重県気候変動適応センター

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フィールドワーク

2020.03.12

夏の暑さに強い新しい米「結びの神」~生産者の視点から~

自宅の作業場 右側が三宅さん

農業 三宅 公朗

■ 「結びの神」との出会い

 三重県松阪市高須町で農業を営んでいます。県の農業研究所から、新しい品種の試験栽培に協力してくれないかと声をかけられて、2011年から「結びの神」という米を作っています。正確に言うと、栽培を始めた時点では、まだ「結びの神」というブランド名は無く、「三重23号」という品種名があっただけでした。三重23号は、品質が基準を満たした一等米だけが「結びの神」として出荷できます。

 当時は「コシヒカリ」と「みえのえみ」を栽培していました。その年の米の収穫は平年並みで、コシヒカリもみえのえみも良いお米が採れましたが、特に三重23号は、最初の年から、粒が大きく透きとおった良質の米が採れたのをよく覚えています。2011年に0.4haから始めて、その後、栽培面積は5haまで増やしました。

 いまは、あきたこまち、三重23号、コシヒカリの3種類の米を作っています。栽培面積の割合は25%、25%、50%です。栽培する品種をひとつに絞らない理由は、収穫の時期を分散する必要があるからです。

 もし同じ品種で田植えの時期を10日程度ずらしたとしても、収穫の時期はほとんど変わりません。刈り取りはコンバインで行い、うちの場合、一日に4ha分の稲を刈り取れます。問題は、籾摺り(もみすり)の作業で、うちの籾摺り機だと一日に2ha分が精一杯です。

 4月第1週にあきたこまちを植えて、1週間から10日後に三重23号を植えて、4月20日以降になってコシヒカリを植えます。こうすると、収穫の時期がうまく分散されて、作業が滞りません。

■ コシヒカリと三重23号

コシヒカリは、台風など強い風が吹くと倒れやすい品種です。冷夏には病気が出やすくなります。逆に夏場が暑ければ、肥料を多めにやらないと白未熟粒が発生しますが、追肥をやりすぎると、食味が落ちてしまいます。独特の食味など、コシヒカリにはコシヒカリの良さがあるから栽培しているのですが、育てるのは難しい品種です。

コシヒカリと比較すると、三重23号は、草丈が低く、強風が吹いても倒れにくい特性があります。また、夏の暑さにも強く、粒の大きな良い米ができます。

■ 温暖化が米の品質に与える影響

 温暖化が、米の品質に影響しているという実感はあります。

 去年(2018年)の夏は大変な猛暑でした。2011年から毎年、三重23号を栽培してきて、はじめて二等米が出ました。三重23号は、品質が基準を満たした一等米だけが「結びの神」として出荷できます。二等米は業務用米としてしか出荷できません。二等米の割合は、三重23号全体の一割にも満たない量でしたが、これはショックでした。

 また、うちでは、パイプラインで田んぼに水を運んでいますが、夏場は田に流れ込む時点で、水がぬるくなっています。寒暖の差があることが、美味しい米を作る条件のひとつなので、水温が常に高いというのは、米づくりには不利です。農家によっては、井戸水をくみ上げて田んぼに水を供給しているところもあります。そういう農家の米は、透き通ってきれいです。

■ 作業環境の悪化 害虫の変化

 温暖化の影響については、米の出来以外にも、作業環境や害虫の変化から強く感じています。早朝から草刈りをしていても朝8時か9時には、一度家に帰ってしまいます。気温の高さと日差しの強さで、日中、屋外で作業をすることは年々厳しくなっています。

 害虫についていうと、カメムシが越冬するようになりました。冬に死なずに生き残るので、カメムシの数が増えていると思います。カメムシは成熟途中の米の汁を吸います。吸われたあとは黒い斑点になって残り、この斑点米が1,000粒中に2粒混ざると、一等米にはなりません。駆除には農薬が必要で、労力も費用も余分にかかります。カメムシが越冬しやすくなっていることは、米づくりを脅かす、農家にとっては深刻な問題です。

 スクミリンゴガイも越冬する数が増えてきました。一般に、ジャンボタニシとして知られている貝です。植えたばかりの稲の苗を食べてしまい、小さな田なら、一枚丸ごとやられてしまうこともあります。

 植えたばかりの苗が被害を免れたとしても、苗が株分かれをして太くなる時期に、新しく出てきた柔らかい芽を食べられてしまうことがあります。そうなると、一株あたりの茎の数が少ないまま成長してしまうので、収穫量にも悪影響があります。

■ 稲以外の作物への影響

 田んぼでは稲以外に小麦と大豆を作っています。秋に米を収穫した後、同じ場所に11月に小麦を播き、翌年の6月に麦を収穫して、7月に大豆を播きます。二年間を1サイクルとして、稲、小麦、大豆の三種類の作物を育てるので、二年三作といいます。

 温暖化による小麦への影響は、特に感じていません。一方、大豆は雨に弱い作物です。7月の種まき後、雨が降ると種が腐ってしまいます。このあたりは海に近く、地下水位が高いので、特に影響が出やすい土地です。温暖化の進行で、夏のゲリラ豪雨が増えると、大豆栽培には厳しい環境になると思います。

■ 気候変動影響の将来リスク

 米づくりをはじめとする三重県の農業にとって、すでに温暖化の影響は深刻です。

 現在と同じレベルの対策しかとらないと、21世紀末には日本の平均気温が4℃上がるということですが、その場合、三重県での米づくりがどうなってしまうのか、想像もつきません。コシヒカリは絶対に作れなくなるでしょう。北海道くらいでしか栽培できなくなると思います。県の農業研究所には、温暖化に耐えられる新しい品種の開発を期待しています。

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