三重県気候変動適応センター

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フィールドワーク

2020.03.17

災害支援の現場から見えてくるもの

センター手配のバスで被災地に向けて出発

令和元年台風第19号被災地支援 みえ災害ボランティア支援センター長 山本 康史

■ みえ災害ボランティア支援センターとは

 みえ災害ボランティア支援センターは、NPO団体や県、県社会福祉協議会など7つの幹事団体で構成されています。災害の都度、支援が必要だと判断した場合に、センターが設置されます。センター長は、センターが設置される毎に、幹事団体から選ばれます。私は、「みえ防災市民会議」の議長という立場で、何度かセンター長を勤めています。

 センターは、阪神・淡路大震災を契機に発足しました。発足当初は、大規模地震への対応が念頭にありましたが、最近は大雨の被害が増えていると感じます。センターの関係者間でも豪雨災害への認識が高まっていると思います。

■ ボランティアと防災NPOが果たす役割

 一般の住宅を巻き込んだ土砂災害の場合、行政だけでは対応できません。行政は、家の中に流入した土砂に手を出さないのです。そこにボランティアの果たすべき役割があります。

 みえ災害ボランティア支援センターは、どのような支援が必要か被災地の情報を収集して必要とされるボランティアを募り、必要があれば現地へ出向くためのバスも用意します。

 被災地での支援活動にはノウハウが必要です。何をどこまで片付けるか、どう作業するか、具体例を挙げると、壁紙は汚れた高さまでは剥がすが、その上の部分は残すとか、サッシは絶対に傷付けないというようなことです。汚れていない壁紙はそのまま使えますし、サッシもそのまま使えれば修繕費を抑えることができます。

 水や土砂によって損なわれた写真や人形、桐箪笥なども、単に廃棄ではなく、きちんとした手当をすれば、元に近い状態に戻したり、部分的に活かせる可能性があります。

 災害公営住宅に移り住めば良い、公的な支援等を受けて新築すれば良いということではありません。いかに被災者が住み慣れた家で、思い出の品とともに暮らし続けられるかということをまず念頭に置くべきです。

 私たち防災NPOには、そうしたノウハウの蓄積があり、それをボランティアの方たちに共有することで、効果的な被災地支援が行えるよう努めています。

■ 災害の変化 地域毎の対応

 昔は、河川や海岸の堤防など社会的なインフラの整備が不十分であったため、地域によっては、頻繁に水害にあいました。そのような地域では、一階が浸水するのが前提で、二階の庇(ひさし)に舟が備え付けてある家もたくさんありました。近年は、社会的インフラの整備が進んだおかげで、水害にあうことは少なくなっていました。しかし、ここ最近の自然災害の発生状況を見ていると、そうも言えなくなっていると感じます。

 また、家屋の構造が昔とは変わっているので、対応も難しくなっています。昔の日本家屋は、土砂が床下に入り込んでも比較的簡単に外へ運べましたが、今の住宅は気密性・断熱性が高まった反面、いったん水や土砂が家の中に入ってしまうと外へ運び出すのは容易ではありません。

 家屋の構造は、地域によっても異なります。過去に起きた災害は教訓となって、その地域の家の作り方に影響を与えています。

 例えば、志摩市の志摩町や大王町などでは、コンクリートの壁のある家が非常に多くなっています。家は木造でも、海側に向けてものすごく高いブロックの壁がたっている。なぜかというと、伊勢湾台風の時に、海岸から礫が風で家に飛んできた経験を活かしているからです。

 県最南部の東紀州は、全国でも有数の多雨地帯ですが、降雨量の割に浸水被害が出にくいのは、水に浸かるところには家を建てない、という当たり前のことを守っているからです。

 逆に浸水を前提とした住まい方というのもあります。ある地域では浸水しやすいことを前提に家を1mぐらい嵩上げしてあり、雨が降る前には自動車を高台に移しておくのが常識になっています。また別の地域では、浸水しやすい一階部分は倉庫にしか使っておらず、浸水する前に倉庫内にある物を上に片付けておくので、浸水しても水洗いして荷物を戻せば元どおりになり、被害に繋がりにくいのです。

 自分の地域のことを知っていれば、家の構造も考えて作るし、万が一被害を受けても、最小限のメンテナンスで直せるということです。

■ 地域の環境事情にあった防災対策の必要性と課題

 ただ、最近は、通常の想定を超えた被害がしばしば発生するようになっています。特に内水氾濫が目立ちます。

 その背景には、気候の変化もあるのかも知れませんが、それとは別に、全国一律の基準で様々な構造物が作られるようになったことがあるのではと感じています。

 今の建築基準や地域の排水を担う側溝は一定の性能基準をクリアするようにルールが定められています。しかし、降水量が多い地域では、その基準を超える雨が降る可能性があっても、基準を満たしているという理由で地域性が考慮されない場面がありえます。昔はその工事をする人たちが地元の工務店や土建屋さんであり、肌感覚としてノウハウを持っていたため、地域特性を加味して見積もりを出して作っていました。今は地元の工務店や土建屋さんがどんどん減り、大手ゼネコンが、全国基準で一律に見積もるということが起こり始めているのではないかと感じています。

 一般の住宅でも建てる時の発注先が、地元の工務店からハウスメーカーに変わっています。ハウスメーカーの設計は地域事情に関係なく決まっていて、施工業者も下請けや孫請けという中で工事をしていくと、その土地が実際に浸水する場所なのか、川の近くなのかということが設計に考慮されなくなります。

 側溝でも住宅でも、地域のことを知っている人たちが、自分たちでルールを作って運用していくことでノウハウは継承されます。逆に、地域ごとの細かい基準が失われて、全国一律の基準で何でも整備しようとすれば、今後の気象変化だけでなく、現在の気象にも耐えられないものを作りかねない心配があります。

■ 災害への気付きとしてのボランティア活動

 ボランティアとして被災地支援に行く経験を積むことで、自分が受け入れる側になるかもしれない、自分の家が被害を受けるかもしれないという気付きが、ものすごくあります。

 もし我が家が水に浸かったらどうすればいいか、支援を経験しておくとその手順が理解できるし、自分がそうならないためには、どういう手立てを講じればいいのか、被災された方から生の声を聞くので、その教育効果はとても大きいです。

 ボランティアは勉強をするために行っているのではありませんが、結果としては持って帰るものがある。だから、支える側になることは、自分や家族を守ることにもつながります。

 例えば、ボランティアに行くと裏山から土砂が流れ込んだ家を見ることがあります。すると、崩れる場所としてのイメージがなかった自分の地域の傾斜地が、崩れる可能性がある場所として備えられるようになります。

 また浸水被害を見ることで、自分の地域にも雨で水が溜まる場所があることに気付くことができるようになります。

■ 気候変動影響の現状と将来リスク

 災害ボランティアは、阪神・淡路大震災で大きく広がりました。その後、2000年の東海豪雨があり、2004年には全国各地で大規模水害が多発して、その時に水害ボランティア活動が確立されました。2004年から2019年まで、水害が起こったらボランティアをすることは当たり前になってきました。この頻発する水害の背景には、気候変動の影響があるのかも知れません。そうだとすれば、大規模水害は今後も発生するでしょう。

 これからの自然災害に対応していくには、住民や行政、事業者等すべての関係者が、個々の地域で、過去にどのような水害や土砂災害等を経験しているのか等、地域の置かれた環境をよく理解することです。そして、その環境に新たな変化が生じていないか注意することです。その上で、社会的なインフラや住宅を整備する際には、地域にあった基準を持って、その地域でどう暮らしていくのかを考えることが大切です。

 今後、高齢化と人口減少がさらに進み、国や地方の財源がひっ迫する中で、激甚な被害を受けた被災地を元どおりに「復旧」することは困難になると思います。いつか来る大規模災害に備えて、よりコンパクトで暮らしやすく災害に強い地域として再建するため、事前に「復興」計画を地域は持つべきだと思います。

 ボランティアが市民権を得て、支えあいの一つの手段として認められてきたことは喜ばしいことですが、言い換えれば、高齢化が進む等、地域の助け合いだけでは支え切れなくなってきているということでもあります。

  私たちに出来ることは、地域で十分に備えて、それでも被災してしまったら、ボランティア等、地域外の力も借りる。“よそ者=ボランティア”の力をいかにわが町に活かすか?という“受援力”をもう一つの地域力として持っておくことも、地元を守っていく鍵のひとつになると思います。

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