三重県気候変動適応センター

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2020.03.27

炭疽病に負けないイチゴ「かおり野」~研究者の視点から~

三重県農業研究所

■ イチゴの生産を脅かす炭疽病

 イチゴの生産にとって、炭疽病は大きな脅威です。イチゴの苗をつくる時期(6月から9月)に、発生する病気で、感染力が強く、せっかく育てた苗が全滅することもあります。炭疽病の被害は、1990年頃から近畿、中国、四国、九州等、日本の南西部の暖かい地域全域に広がりました。主に農薬の使用や、栽培法・栽培環境の転換などによる対策が取られてきましたが、効果が安定せず、近年の温暖化が原因と考えられる長雨や台風の影響もあり、現在も深刻な被害が発生しています。

 また、イチゴは8月中旬から9月中旬に気温が高くなると花芽の形成が遅れ、1ヶ月以上収穫が遅れることにより、クリスマスケーキなど需要の高い12月に出荷できないことがあります。

■ 新しい品種の開発

 そこで、三重県農業研究所では、炭疽病への抵抗性があり、高温でも花芽の形成が遅れにくい「かおり野」(商品名は「かおりの」)を開発しました。1990年に新しい品種の開発に着手し、18年後の2008年に品種登録出願を行いました。

 「かおり野」は、他の品種に比べて花が咲く時期が早く、11月中旬から収穫を開始できます。イチゴの需要が最も高いクリスマスやお正月に果実をたくさん収穫することができるので、生産者の収益改善にも役立っています。

■ 新品種の県内外での展開

 通年の収穫量が多いこと、果実が大きいこと、高い糖度で酸味が少ないなど香りや味が優れていることなどから、現在、三重県ではイチゴの栽培面積の約3割を占めるほどになりました。県外でも、山口、千葉、静岡、熊本、福岡など全国で広く栽培されており、生産者の数は年々増加しています。

※備考・各年度内に許諾料を納入した生産者許諾数の累計である(団体許諾は含まない)。

 また、上記の特長に加え、低温でも大きな株に成長するため、暖房温度を下げた省エネ栽培が可能なことも生産者にとっては魅力です。

 国内のイチゴ主要産地ではない三重県が開発した「かおり野」が拡がったのは、他の品種にはない炭疽病に強く、早くからたくさん収穫できることが生産者から評価されたと思います。

■ 気候変動影響の現状と将来リスク

 炭疽病を引き起こす糸状菌の発育適温は28℃前後です。雨や頭上かん水が感染を助長させるため、真夏の強い風雨、夕立、台風の後には発生が急に増えます。

 「かおり野」は、炭疽病への抵抗性がある品種ですが、気象条件等によっては発病することがあります。今後、気候変動により、夏の気温がさらに上昇し、大雨が頻発することがあれば、「かおり野」の栽培に影響が出ないとはいえません。夏のさらなる高温は、花芽を形成する時期を遅らせ、収穫開始時期についても影響する可能性があります。「かおり野」の開発には約18年かかりました。今後の気候変動に留意しながら、栽培法の工夫や品種改良など、常に次の一手を考えていく必要があると思います。

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