2020.04.16
高い水温でも育つ黒ノリ「みえのあかり」~研究者の視点から~
三重県水産研究所 鈴鹿水産研究室
■ 黒ノリの養殖環境の変化
黒ノリ養殖は10月上旬ごろから始まる冬の養殖業です。水温が23℃を下回った時が黒ノリ養殖の開始時期になります。
近年、伊勢湾(鈴鹿市白子港)の表層の水温が、23℃以下になる時期は遅れがちになっています。水温が下がりかけても一定の水温で停滞したり、いったん下がった水温が再び上昇する等、水温の下がり方も不安定になっています。
水温が十分に下がらない海況で養殖を開始するとノリが網から脱落してしまったり、正常に生長しないため、黒ノリの生産量が減少し、生産者の経営を圧迫しています。
12月までの年内に生産される黒ノリは柔らかく高品質なため価格が高く、特に、この時期の生産の減少は生産者に大きな損失をもたらしています。
■ 新しい品種の開発と普及
三重県水産研究所では生産者からの要望に応えるべく、2005年から高水温に強い品種の開発に取り組んできました。新しい品種は、研究室内において、黒ノリの選抜育種を繰り返すことで作り出しました。選抜育種とは、たくさんの黒ノリの中から高水温に強いノリを繰り返し選び出す作業を指します。
新品種の開発には5年を要し、3年間かけて優良な種を選び出し、2年間、現場で実証試験を行いました。
その結果、できたのが「みえのあかり」です。「みえのあかり」は、水温が下がりにくくなっている12月までの年内生産期においても生長が良好です。また、通常品種に比べて収穫量が多いのも特徴です。「みえのあかり」を用いて製造した板ノリ製品の品質は高く、入札時の等級分けでは上位等級に選別されることが多くなっています。
■ 気候変動影響の現状と将来リスク
「みえのあかり」を養殖品種のひとつとして使用している生産者からは、高水温環境下においても養殖状況が良好であるとの声が聴かれます。県内のノリ生産者にとって漁場の高水温化は共通の問題であるので、今後も「みえのあかり」を使用した養殖が広まっていくことが期待されます。
黒ノリ養殖における高水温の問題は、三重県だけに限ったことではありません。近年、他県のノリ生産地でも年内生産期の高水温化によって、魚類や鳥類の食害が長期化していることも指摘されています。
今後、気候変動により、さらなる高水温化や、集中豪雨による急激な塩分低下の頻発など、ノリ養殖にとってさらに厳しい環境になっていくことが予想されます。生産者は、今までに培ってきた技術と経験に加え、これらの養殖環境の変化にいかに柔軟に対応していけるかが重要になってきます。
三重県水産研究所では将来予想される環境下でも持続的に養殖が行えるよう、新品種の作出や養殖技術の開発、環境情報の提供などに取り組み、黒ノリ養殖業の支援を続けてまいります。