三重県気候変動適応センター

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2023.02.03

流域治水 ~地域住民による田んぼダムの取組

清菅SHKクラブ

清菅SHKクラブについて

 私たちの組織は、清菅SHKクラブと言います。
 三重県松阪市で農地の保全を中心とした活動に地域の住民が共同で取り組む組織です。

 SHKクラブは、精魂の郷保全・管理クラブの略称です。
 「精魂の郷」というのは、2002年度に県営ほ場整備事業が竣工した際に、櫛田土地改良区が建てた記念碑に刻まれた言葉です。
 ほ場整備というのは、農地の区画整理です。小さな田畑、形のいびつな田畑をならして、大きな形の整った農地にまとめます。

 当初は、櫛田、清水、菅生の3地区で活動していましたが、櫛田地区が独立して活動するようになったのを契機に、清水地区と菅生地区の頭文字をとって、清菅SHKクラブとなりました。

 農業関係の組織ですが、農家だけで構成されているわけではありません。子ども会や老人会、農家以外の方も含めて、地域一体で、水路の草刈りや掃除、ツツジの植樹等の活動をしています。

清菅SHKクラブの皆さん
画面中央、右手に堰板を持っているのが代表の安達さん

田んぼダムとは

 清菅SHKクラブでは、県からの呼びかけに応えて、2021年から田んぼダムに取り組んでいます。

 田んぼダムというのは、国や県が進めている治水対策の一つです。
 田んぼの水位を一定に保てるように、田んぼの水の出口には堰板というものがはめ込んであります。堰板は水をせき止める板です。

 田んぼダムでは、切り欠けのある堰板をもう一枚、すでにある堰板の上に追加します。
 大雨が降っても、追加の堰板の分だけ、余分に水を溜めることができるようになります。溜めた水は、堰板の切り欠けから通常よりも時間をかけて水路や川に放流するので、水嵩が急に増えるのを抑え、洪水が起こりにくくなります。


切り欠けのある堰板を追加した田んぼ(通常の堰板は水面下に隠れて見えない)

 田んぼダムという言葉を知ったのは、6年ぐらい前のことです。

 地域で共同活動に取り組む活動組織の集まりで、県の職員から田んぼダムについての紹介を聞いたのが最初でした。地域に戻って、こんな話を聞いてきたと何度か説明したのを覚えています。

2017年の豪雨被害

 田んぼダムの話を聞いてから、すぐに取組を始めたわけではありません。
 転機になったのは、2017年の豪雨でした。

 10月21日の豪雨で、この地域は大変な被害に遭いました。菅生地区では床上浸水した家がありました。
 一番浸水した場所は、もともと低い、水が溜まりやすい土地なので、家屋などは建っていないところですが、もし、家があったとしたら、2階の屋根まで水没していたはずです。人によっては、水深が10mあったという人もいます。

 大雨が降ったら溜まった水はポンプを使って排水するのですが、この時は、そのポンプ小屋も水没してしまって、ポンプが使えませんでした。

 この時のことを教訓に、翌年、ポンプ小屋は3mほどかさ上げしました。

田んぼダムに取り組んでいる区域(赤枠)と2017年10月の豪雨の浸水被害区域(青枠)

田んぼダムに取り組んでから

 田んぼダムを始めて以降は、極端な豪雨には見舞われていないため、特に効果を実感したということはありません。雨のあとは、田んぼにたくさん水が溜まっているなと思うくらいです。

 ほ場整備を行ったあとの農地なので、田んぼの畦は立派な畦です。水をたくさん溜めてもそれで畦が崩れるといった心配はありません。水は大体30cm の深さまで溜められます。

 農地が田んぼダムとして機能するのは1月から10月までです。田植えの時期も含まれていますが、仮に、田植え直後の苗が全部水没したとしても、数日程度であれば、苗にとって特に悪い影響はありません。

 この地域では2年3作で農地を回しています。米を作ったあとは、同じ場所で麦と大豆を作ります。2年で3つの作物を作るので、2年3作です。

 麦と大豆を作っている間は、田んぼダムとしての機能はないので、毎年、田んぼダムとして使われる農地は全体のおよそ半分ほどになります。

ほ場整備後の水田

みんなで取り組む必要性

 清菅SHKクラブだけが、田んぼダムに取り組んでも十分な効果は挙げられないと思います。

 もちろん普通の大雨なら、一定の効果はあるでしょう。しかし、線状降水帯がもたらすような極端な豪雨に対しては、あまり効果は期待できないと思います。

 それでも、田んぼダムに取り組むのは、水害を防ぐためには、地域を越えた面的な広がりが必要だと思うからです。
 自分たちの地域の上流側を含めて、広い地域が取り組んではじめて、田んぼダムは大きな効果を発揮するはずです。
 自分たちが取り組んでいないのに、上流側でも取り組んでほしいと呼びかけるのでは説得力がありません。

 このまま気候変動が進んでいくと、子どもや孫たちの暮らす未来は大変なことになってしまいます。

 その危機感があるから、田んぼダムに取り組んでいるわけです。
 田んぼダムについて、私たち自身が他の地域の人たちに直接呼びかけもするし、いろいろな取材にも応じるようにしています。

 田んぼダムは、水害を軽減するための取組ですが、本当に必要なのは、極端な豪雨等の原因となっている温室効果ガスを減らすことです。

 県等の関係機関には、田んぼダムの取組の輪が広がっていくよう、頑張って周知してほしいと思います。
 そして、それ以上に温室効果ガスの削減を強力に推進してほしいと思います。

《流域治水 ~気候変動を踏まえ、流域全体で取り組む治水へ 三重県県土整備部河川課 はこちら

《流域治水 ~気候変動を踏まえ、流域全体で取り組む治水へ 三重県農林水産部農業基盤整備課、農産漁村づくり課 はこちら

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